6/28 (水)には東三学術講演会が開催されました。今回の講演会では、心不全をテーマとして一般講演と特別講演の2演題が企画されていました。私は一般講演の座長を仰せつかったのですが、豊橋ハートセンター慢性心不全認定看護師の五十嵐睦美先生から「心不全増悪を繰り返す老老介護患者の在宅療養を可能にした支援」という演題名でご講演をいただきました。豊橋ハートセンターでは、心不全チームという多職種からなるチームを結成して慢性心不全患者さんの治療・支援にあたっていることを以前にも紹介しましたが、五十嵐先生は兵庫県まで通って「慢性心不全認定看護師」という専門資格を取得され、現在心不全チームの中心となって活躍されています。今回は、入退院を繰り返していた患者さんに対してご家族や訪問看護師・介護士らと連絡を密に取り合い、体重のセルフモニタリングや塩分の制限などを進めることによって再入院を予防できた症例を提示していただき、きめの細かい指導や多職種との連携が重要であることを再認識させていただきました。
特別講演では「慢性心不全の管理にトルバプタンができること」という演題名で、安城更生病院循環器内科部長の植村祐介先生からご講演をいただきました。植村先生は自院のデータを用いながら、慢性心不全は予後の悪い疾患であること、一旦入院するとADL (日常生活動作) がかなり低下すること、再入院や死亡の予測因子としてeGFR (腎機能の指標) や血清アルブミン値 (栄養状態の指標) が挙げられることなどを示されました。また心不全治療ではうっ血を改善するために利尿剤を使用することが多いのですが、利尿剤が効きにくい (利尿剤抵抗性) 場合の原因としてやはりCKD (慢性腎臓病) や低アルブミン血症、低灌流(心機能低下) の存在があることを解説されました。さらに、新規心不全治療薬 (利尿薬) であるトルバプタンの有効性について概説されるとともに、トルバプタンの実際の開始方法、使用する際の注意点 (高Na血症の危険性が指摘されています)、慢性期の使用法についてなど、多岐にわたって詳しく説明していただきました。私自身としては、かなり腎機能が低下した状態 (eGFR 20台) でもトルバプタンが有効であることにかなり驚きを覚えました。残念ながらトルバプタンは処方を開始する際に一旦入院を必要とするため、我々かかりつけ医が最初に処方することは出来ませんが、今後病診連携によりトルバプタンを内服中の患者さんが紹介されてくることも想定されます。非専門医が安全に使用を続けるためには、トルバプタン使用患者のための連携パスの作成なども必要ではないかと感じながら拝聴しました。
実は、植村先生は私がまだ名古屋大学医学部循環器内科に在籍していた当時の学生さんで、私が医局長をしていた関係もあり、彼に卒業後の研修先についてアドバイスをしたというエピソードがあります。そんな彼が循環器内科を選んでくれて、さらには第一線で活躍されていることを大変うれしく思うとともに、時の流れを感じずにはいられませんでした。五十嵐先生と植村先生の今後の益々のご活躍を祈念し、この稿を終えたいと思います。