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第7回豊橋ライブOMTコース

5/25 (木) に、第7回豊橋ライブ OMT (Optimal Medical Therapy) コースが開催され、今年も徳島大学循環器内科 佐田政隆教授と一緒にコース世話人を務めさせていただきました。豊橋内科医会との共催で開催されるようになってから3年目の今年は、50名近いかかりつけ医の先生方に参加していただき、過去最多の参加人数となりました。
まず第一部では「心血管イベント抑制を目指した糖尿病最新治療と注意点」という演題名で、高槻赤十字病院 糖尿病・内分泌・生活習慣病科部長の金子至寿佳先生にご講演を賜りました。金子先生には3年前の豊橋ライブでもご講演いただいたのですが、その際の明快ではぎれのよい講演が大変好評だったため、今回もお願いすることになりました。先生は、低血糖がなくかつ食後高血糖と体重増加をできるだけ少なくして血糖コントロールを行うこと、即ち質の良いHbA1cを目指すことが重要であると強調されました。話題のEMPA-REG OUTCOME試験やLEADER試験にも言及され、SGLT2阻害薬が心保護作用を有している可能性や、GLP-1誘導体間のエビデンスの違いについて解説していただきました。なお、SGLT2阻害薬の一部では下肢切断のリスクが上昇する可能性があるため、PAD患者に使用する際には十分な注意が必要であることなど、利点だけでなく注意点も教えていただき、大変内容の濃い45分間でした。
続いて第二部は「深部静脈血栓症の診断と治療」という演題名で、岐阜ハートセンター形成外科部長の菰田拓之先生にご講演を賜りました。菰田先生はこの4月に岐阜ハートセンターに赴任されたばかりですが、この分野のスペシャリストとして大変ご高名な方で、まさにこのテーマにふさわしい人選ではないかと思います。先生はまず基礎知識として静脈還流や血栓形成について概説され、その後でDVTの症状や蜂窩織炎などとの鑑別、治療法について教えていただきました。そして残りの時間で、今回のメインイベントである「下肢静脈エコー デモンストレーション」を行っていただきました。こういった企画は通常の内科医会では難しいため、まさに豊橋ライブならではの企画だったと思います。会場の前面にベッドとエコー装置 (今回はGEさんにご協力いただきました) を置き、菰田先生の手元と実際のエコー画像を同時にスクリーンに投影することで、全ての先生方にその手技を見ていただくことが出来ました。我々かかりつけ医が下肢静脈エコーの実技を見ることは非常に稀ですので、先生方の日常臨床に少しでもお役に立てば幸いです。
おかげさまで今回のOMTコースも盛況のうちに会を終えることができました。ご講演いただいた金子先生、菰田先生、世話人をお引き受けいただいた佐田先生、ご参加いただいた先生方、そしてコースの運営にご協力いただいたスタッフの方々、本当にありがとうございました。

高血圧最新医療セミナー

5/23 (火) は「高血圧最新医療セミナー」が開催され、名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学教授の室原豊明先生から「家庭血圧から高血圧を考える」という演題名で、また岐阜大学大学院医学系研究科 循環・呼吸病態学教授の湊口信也先生から「虚血心筋保護とMuse細胞」という演題名でそれぞれご講演を賜りました。名古屋・岐阜両大学の循環器内科の教授がそろってご講演されるのは非常に珍しく、ましてやそのご講演が豊橋の地で聴講できるということで、大変貴重なセミナーとなりました。
まず講演1では室原教授のご講演を拝聴しました。室原先生は、最初に高血圧の疫学から現在の高血圧治療ガイドラインについてオーバービューされ、家庭血圧やABPM (自由行動下血圧) の重要性を指摘されました。ABPMの重要性は誰もが認めるところですが、一方で夜間就寝中に血圧計のカフが定期的に締まるため、睡眠障害が起こりやすいのが難点でした。室原先生からは、この欠点を克服すべく、産学連携によりカフを使用しない自動血圧計を開発中であることを紹介していただきました。指先にチップをはめて行うこの方法は、指尖脈波を血圧値に変換するもので、すでに国際的な精度評価試験の基準もクリアしているそうで実用化寸前といったところのようです。この血圧計を用いれば睡眠障害を起こすことなく夜間血圧が測定できるようになりますので、我々がABPMを行うハードルも随分下がりそうです。また室原先生は、現在大学病院で行われている脂肪組織由来幹細胞を用いた血管再生療法について紹介され、バージャー病や膠原病による下肢壊疽が劇的に改善する症例をご呈示いただきました。引き続き症例をリクルート中とのことですので、適応する症例がありましたら是非ご紹介したいと思います。
引き続き講演2では、湊口教授のご講演を拝聴しました。湊口先生には、ご自身のライフワークである虚血再灌流傷害と心筋保護について、膨大な研究成果をわかりやすく解説していただきました。特に、プレコンディショニングのメカニズムと様々な薬剤の効果について、ニコランジルを始めとした幾つかの薬剤の可能性についても教えていただきました。また湊口先生は、ご講演の後半で、現在積極的に取り組まれているMuse (ミューズ) 細胞の基礎的および臨床的知見について紹介されました。Muse細胞は東北大学の出澤教授らのグループにより発見された細胞で、骨髄や皮膚などの体内に元々存在し、体を構成する様々な細胞に分化できる幹細胞です。体内にMuse細胞が注入されると傷ついた臓器に集まり組織修復しますし、点滴投与なので体への負担が少ないこと、腫瘍を形成する可能性が低いこと、一つのMuse細胞製剤で多くの疾患に適用可能なことなどのメリットがあります。湊口先生は急性心筋梗塞患者にMuse細胞を投与して心機能が改善するかどうかの治験を行う計画を進めており、早ければ来年にも開始されるようです。今後の発展が非常に楽しみな領域だと感じました。
室原先生、湊口先生、今回はわざわざ豊橋までお越し頂き本当にありがとうございました。先生方のご研究が益々発展されることを祈念するとともに、早く我々の身近な臨床現場に利用できるようになることを期待しています。

健康長寿と動脈硬化フォーラム

4/12 (水) は久しぶりに名古屋の研究会に出席してきました。診療が終わってから向かったため一般演題には間に合いませんでしたが、特別講演は聴講することが出来ました。研究会の名称は「第4回 健康長寿と動脈硬化フォーラム」で、特別講演は「フォーカス!最後の心房細動診療 −Aging×Atrial Fibrillation− 」という演題名で、心臓血管研究所所長の山下武志先生から賜りました。山下先生のご講演は、流れるようなお話とインパクトのあるスライドの組み合わせが秀逸で、知らないうちに講演の中に引き込まれていくような感覚でした。
今回の講演は高齢者 (超高齢者) の心房細動治療に焦点を当てた内容で、DOACを使用して心原性脳塞栓を減らそうという一般的な講演とは一戦を画す内容でした。まず山下先生は、高齢心房細動患者の死因は脳梗塞よりも心不全の方がはるかに多く、さらに心不全よりも心臓以外の疾患(癌や肺炎など)の方がはるかに多いことを示され、脳梗塞さえ予防すればよいという風潮に対する疑問を投げかけました。その上で山下先生は、「外を見て内を診る」という言葉を用いて、まず患者さんをよく“見る”ことによりフレイルの有無を確認することの重要性を示されました。身体的フレイル (歩行速度や握力の低下)、精神的フレイル (認知機能の低下)、社会的フレイル (貧困や独居など) の観点からフレイルを多面的に捉えて評価することで、HAS-BLEDスコアなどよりも出血リスクを的確に予測できることを教えていただきました。
“内を診る”という観点では、心房細動患者の死亡リスク因子として腎機能低下、肺疾患、心不全、貧血 (出血の既往) が挙げられることを示されました。これらのリスクが高ければ高いほど、想定外のイベントが起こる頻度も高くなることから、当然DOACの使用にも十分な注意が必要となります。一方でフレイルがなくリスク因子も持たなければ、その患者さんの余命は長いことが予想されるため、積極的にDOACを使用することが推奨されます。その場合でも、すでに多くの薬剤を服用している (ポリファーマシー) 場合は、出血を始めとした有害事象が多くなるため、出来る限り薬剤を整理して減らすことが必要であることを教えていただきました。また高齢者は様々な代謝機能が落ちているため、通常用量よりも少量のDOACで十分有効かつ安全である可能性が高く、現在あるDOACでは用量を減らした治験が行われているそうです。よい結果が得られれば、高齢者 (超高齢者) 心房細動治療に新たな選択肢が加わるかもしれません。
山下先生は数々の著書でも知られる大変ご高名な先生ですが、いつ講演を聴いても新しい話題が満載で、今回も大変感銘を受けました。最後に控えめに宣伝された著書も是非購入したいと思います (笑)。

第81回日本循環器学会

3/18 (土)、19 (日) は日本循環器学会学術集会に出席してきました。今年は「次世代へつなぐ循環器病学」をテーマに金沢で開催されたのですが、例によって土曜日の診療を終えてから出かけたため、金沢に着いたのが17時を過ぎており、実質19日のみの参加となりました。それでも7:40から始まるモーニングレクチャー (高血圧診療のup to date:Sprint試験をどうとらえるか) を皮切りに、コントロバーシー (冠動脈疾患危険因子の管理:標準治療か厳密治療か)、シンポジウム (冠動脈疾患の残余リスクから新たな介入ポイントを考察する)、ランチョンセミナー (プライマリケアから始まる高血圧治療)、さらには教育セッション (突然死の原因となる致死性不整脈に対する診断と治療) と5つのセッションを聴講することが出来ました。昨年は最先端の治療に関する話題を中心に聴講したので、今年は特に実臨床に役立つ内容を聴くよう心がけました。特にコントロバーシーの会場は超満員で、会場内の先生方の熱気が伝わってくるような印象を受けました。内容も脂質・血圧・血糖の治療について、それぞれ標準治療を推薦する立場と厳格治療を推薦する立場から講演をいただき、さらに講演前後でアナライザーシステムを用いて会場の先生方の考えの変化を聞くなど、大変興味深いものでした。脂質に関する講演の中では、ほぼ同時期に行われているACC (アメリカ心臓病学会) で発表されたばかりのフーリエ試験の結果も提示され、会場内がざわつく場面もありました。
それしても国際規準の会議場のない立地条件のなかで、金沢駅東口の地下イベント広場に総合受付を設け、さらに石川県立音楽堂と能楽堂、駅周辺のホテル、複合型商業施設のシネコンまで導入した会場運営は、山岸会長をはじめとする運営スタッフのご努力に加え、地元の方々の協力なしには成し得なかったものと思います。素晴らしい学会を開催していただき、本当にありがとうございました。

Toyohashi Heart Failure Conference

2/2 (木) には第1回 Toyohashi Heart Failure Conference が豊橋ハートセンター内のハートホールにて開催されました。この会はハートセンターの寺島先生と市内のかかりつけ医数名が中心となって、心不全患者さんの病診連携を考える会として始めたものです。ハートセンターでは数年前から多職種 (医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士等) による心不全チームを結成し、慢性心不全の治療にあたっていることは以前にも述べましたが、今回は一般演題として病診連携・チーム医療の実例を紹介するとともに、特別講演として「高齢者心不全治療の話題 −チーム医療を含めて−」という演題名で兵庫県立尼崎医療センター循環器内科部長の佐藤幸人先生にご講演を賜りました。
私は一般講演の座長をさせていただいたのですが、まず1題目では心嚢液貯留による心不全患者さんの一例が提示され、紹介から診断・治療に至る一連の経過を、弥生病院の渡辺先生およびハートセンターの横井先生にそれぞれの立場から紹介していただきました。2題目では慢性心不全看護認定看護師である五十嵐さんから、心不全チームとして関わることによって入院回数を著しく減らすことができた慢性心不全患者さんの一例を提示していただき、さらに外来でのカテコラミン点滴やカルペリチド点滴など、先進的な取り組みも紹介していただきました。病診連携を円滑に行って行くためにはこのような症例検討の場が是非必要だと思われますので、今後も引き続き行っていただきたいと思います。
さて特別講演の佐藤先生ですが、ご存知の様に心不全治療の分野では大変ご高名な先生で、私も日経メディカルの連載や先生の著書を度々拝見していたことから、今回のご講演を大変楽しみにしていました。そのご講演は期待に違わぬ大変素晴らしいもので、チーム医療や病診連携のあり方、さらには昨年10月に出された「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」の紹介や末期心不全患者さんに対する終末期医療に至るまで、幅広い内容をわかりやすく教えていただきました。特に心不全患者さんの終末期医療に関しては、心不全という疾患 (症候群といった方が適切かもしれません) の予後が決してよくないこと (一度心不全を起こした患者さんの5年生存率は50%程度しかなく、これは乳がんや大腸がんの患者さんの5年生存率とほぼ同じ数字です) を、もっと世間一般の方々に周知し理解を深めてもらうことが重要であると痛感しました。
超高齢化社会を迎えて今後益々増加するといわれている心不全患者さんの治療を地域の中でどのように連携して行っていけばよいのか、今後も1−2回/年の割合で会を行い考えていきたいと思います。
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