高血圧や糖尿病の治療なら豊橋市の松井医院へ

post

小児科の廃止について

この度当院では診療科の見直しを行い、4月1日より「内科・循環器内科」へ変更しました。小児科の標榜を終了させていただくことになりましたが、この決定につきまして少しご説明させていただきます。

当院は祖父・父・私と3代にわたって地域医療に携わってまいりました。祖父の代の主な診療科は外科でしたが、父親の代になり「内科・小児科・放射線科」に標榜変更しました。父が継承したのは昭和39年でしたが、その当時は小児科を標榜する診療所が少なかったため、小児の患者さんが非常に多かったと聞いています(今でも子供の頃に父に診てもらったという患者さんがお見えになります)。その後、近隣に小児科専門のクリニックが増えたことにより当院の小児患者数は漸減しましたが、私が平成17年に継承した際も、多くの小児患者さんが来院されていました。そのため私は小児科の標榜を継続(内科・循環器科・小児科と標榜)し、引き続き小児の診療を行ってきました。内科の患者数と比べて決して多くありませんでしたが、それでも一定数の小児患者さんが受診されていましたし、小児のワクチン接種にもニーズがあったと考えています。

以上のように、新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)が流行する以前は、内科の患者さんと小児科の患者さんが診療所の中に混在していても大きな問題は生じていませんでした。しかしながらCOVID-19の流行以降は、慢性疾患の患者さんと急性疾患(特に発熱疾患)の患者さんを完全に分離する必要性が生じました。特に当院では高齢者や糖尿病・心臓疾患などの持病を抱える患者さんが多かったことから、より慎重な対応が必要と考えました。そのため、一般外来の時間と発熱患者専用外来の時間を分ける方法(時間的分離)を選択したのですが、結果的にほぼ全てが発熱疾患である小児の患者さんを受け入れる枠が減少してしまう結果となってしまい、大変申し訳なく思っています。

4月1日以降は全ての特例措置が終了しますので、徐々に以前のような診療体制に戻ることが予想されますが、一方でCOVID-19という病気がなくなったわけではありませんし、高齢者や持病を抱える患者さんにとって危険な存在であることにも変わりありません。そのため当院としては引き続き慎重な診療体制を取る必要があると考えています。このような情勢の中で当院の果たすべき役割は何かと再考した結果、これまで以上に当院のミッションである「高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの生活習慣病の管理・治療に力を注ぎ、動脈硬化の予防に努める」ことに注力すべきと判断し、それに伴い小児科の標榜を終了させていただくことにしました。

もちろん標榜科がなくなっても小児診療を完全に中止するわけではありません。以前から当院に通院されていた患者さんなど当院での診療を希望される場合は、引き続き診療を行います。ただ乳幼児(小学校入学前)の方に関しては、より高い専門性を必要としますので小児科クリニックへの受診をお勧めいたします。また小児科関連のワクチンは全て終了させていただきます。当院で接種可能となるワクチンは、中学生以降に接種を開始する「子宮頸がんワクチン」からとなりますのでご了承ください。

今後も患者さんのニーズに応じた質の高い医療サービスを提供するため、努力を続けてまいります。ご理解とご協力の程お願いいたします。

オンライン資格確認について

大変ご無沙汰しております。新型コロナウイルス感染症の流行により何かと忙しかったので・・・というのは言い訳にしか過ぎないですね。

さて今回は学術的なことではなく、マイナンバーカードを利用したオンライン資格確認について簡単にご紹介したいと思います。なおマイナンバーカードを健康保険証として利用される方は、あらかじめマイナポータル等で健康保険証利用の申し込みをしておくことをお願いしています。(後述の顔認証付きカードリーダーでも申込は可能ですが、受付に時間がかかるため混雑が予想されます。)

さて「オンライン資格確認」とは、マイナンバーカードのICチップ等によりオンラインで資格情報の確認ができることをいいます。具体的にはマイナンバーカードを「顔認証付きカードリーダー」に置いて、顔認証による本人確認を行います。その後各種情報の取得に同意していただくと、以下のことが可能になります。

 

・薬剤情報や特定健診情報等の診療情報の閲覧

・限度額情報の取得(高額療養費制度を利用する方のみ)

 

薬剤情報とは、令和3年9月以降に医療機関を受診し、薬局等で受け取ったお薬の情報です。 調剤年月日、医薬品名、成分名、用法、用量などが分かりますので、薬の重複が避けられますし、かかりつけ医以外の医療機関を受診した場合や、旅先や災害時でも薬の情報が連携されるというメリットがあります。

特定健診情報とは、40歳から74歳までの方を対象に、 メタボリックシンドロームに着目して行われる健診結果の情報です。令和2年度以降に実施したものから5年分 (直近5回分)の健診結果が参照可能になりますので、患者さん自身が口頭で説明する必要がなくなります。さらに自分の体についてのデータを見たうえで診察・薬の処方をしてもらえることで、より良い医療を受けられるというメリットがあります。

限度額情報とは、窓口での支払が高額になる場合に自己負担の限度額(所得に応じて決められています)がいくらになるのかという情報です。これまでは事前に限度額適用認定証を医療機関に提出しないと一時的に全額を支払う必要がありましたが、マイナンバーカードを利用し情報提供に同意することで限度額を超える支払いが免除されるというメリットがあります。

 

当院では、これらの診療情報を取得・活用することにより質の高い医療の提供に努めて行きたいと考えています。

正確な情報を取得できるよう、マイナ保険証の利用にご協力をお願いいたします。

 

院内感染対策

2月以降は各種研究会が全て中止になったこともあり、「Doctor’s Topics」をしばらくお休みしてしまい申し訳ありませんでした。まだ研究会再開の目処は立っていませんが、最近はオンラインでの講演会も多くなり、特に新型コロナウイルス感染症に関する講演は時間の許す限り聴講するように心がけています。

さて本日は当院における院内感染対策についてお知らせしたいと思います。現時点で新型コロナウイルス感染症に関するガイドラインや手引きが複数の団体から出ています。厚生労働省・国立感染症研究所が中心となって作成された「新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き 第2版」や日本プライマリ・ケア連合学会が作成した「新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 診療所・病院のプライマリ・ケア 初期診療の手引き version 2.0」、さらには日本環境感染学会が作成した「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第2版」などがありますが、私は特に感染管理の観点から、国立国際医療センター 国際感染症センターが作成した「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理」と日本医師会が作成した「新型コロナウイルス感染症 外来診療ガイド」を参考にして診療にあたっています。中でも日本医師会の診療ガイドは、感染症の概要についてはできるだけ簡潔にして、流行期に求められる感染対策や外来診療の実際に焦点を当ててわかりやすく解説しています。以下、診療ガイドの項目別に当院の取り組みを考えてみたいと思います。

 

A 症状のある患者と他の動線と時間を分離する  →  当院では構造的に一般の患者さんと症状のある患者さんの出入り口を分けることが困難なため、時間を分離する方法を選択しました。具体的には「かぜ・発熱患者専用外来」を平日の11:30 〜 12:00に設け、この時間帯では一般の患者さんの診療を原則としてお断りしています (ただしかぜ症状の患者さんがいなければ診療可)。その場合はオンライン診療や電話再診を利用していただくか、時間をずらして再受診していただくようにお願いしています。もし症状のある患者さんが複数いらっしゃる場合には自家用車内で待っていただき、1人の患者さんの診療 (会計を含む) が完全に終了してから新たに診療所内へご案内するようにしています。

ちなみに一般外来を受診される全ての方(付き添いの方も含む)にも体温測定をお願いし、症状の有無にかかわらずマスクを着用するようにお願いしています。

 

B 症状のある患者を診察する際の留意点  →  感染対策の基本は「標準予防策の徹底」ですので、当院では職員全員がサージカルマスクを着用しています。私自身は以前からマスクを着用していたのでそれほど苦にはなりませんが、夏場にはかなり暑苦しくなりそうです。手指消毒についてはアルコール消毒液を、診療所入口を含めた複数箇所に設置し、いつでも手指衛生が行えるように配慮しています。また洗面スペースには紫外線・熱風を併用した手指殺菌装置を新たに設置しましたので、適宜利用していただければと思います。

ただ現在もアルコールが不足しがちのため、環境消毒には金属部分を除いて0.1% 次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用しています。

なお一般の診察室とかぜ症状のある患者さんを診る診察室を分けるようにしました。特に後者にはクリーンパーティションを置き、空気の流れが一方向に向かうようにして飛沫やエアロゾルの飛散を防ぐように配慮しています。疑わしい症状の場合にはフェイスシールドと手袋を着用し、状況によってはガウンとキャップも着用することにしています。N95マスクも少ないながら装備していますが、当院では検体採取を行うことはないので、今のところ使用実績はありません。

 

C レントゲン撮影における留意点  →  レントゲン室は構造上窓がなく換気効率が悪いので、サーキュレーターを設置して効率を高めるようにしています。また症状のある患者さんについては、極力連続して使用しないように注意しています (診療ガイドでは30分以上の間隔を空けるように推奨しています)。

 

D 症状のある患者の診療後の環境消毒  →  「かぜ・発熱患者専用外来」終了後と午後の診察終了後には、必ずアルコールもしくは0.1% 次亜塩素酸ナトリウム水溶液で環境消毒を行うようにしています。特に「かぜ・発熱患者専用外来」終了後には窓を開けて室内の換気を行うとともに、空気清浄機や紫外線による空気滅菌装置を併用しています。なお待合室や処置室にある換気扇は24時間onの状態にしています。

 

E その他 (院内の整備と対策)  →  受付のカウンターは開口部を狭くして、ビニールシートのカバーを設置しました。また待合のレイアウトを変更するととともに、離れて座っていただくように座席間にポスターを貼っています (クマモン使用のポスター、なお熊本市役所には使用許可を取ってありますのでご安心下さい)。なお、今のところ雑誌類は定期的に紫外線滅菌装置で殺菌した上で設置を継続していますが、流行期に入った際には感染防御の観点から撤去する予定です。

 

新型コロナウイルス感染症についてはまだわからない点も多く、情報も日々更新されています。我々医療機関も試行錯誤しながら、少しでも患者さんが安心して診療を受けられるように努力していますので、必要以上に感染を恐れて定期受診を差し控えることのないようにお願いします。特に心臓病や糖尿病、高血圧、呼吸器疾患(喘息やCOPDなど)は新型コロナウイルス感染症重症化の危険因子と言われていますので、日頃からのコントロールが非常に重要です。オンライン受診や電話再診を利用する方法もありますので、もし心配な点がありましたら是非かかりつけ医までご相談下さい。

 

*追記:5/29付で「新型コロナウイルス感染症 外来診療ガイド」が、6/2付で「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理」が、それぞれ改定されました。特に「新型コロナウイルス感染症 外来診療ガイド」は20ページから31ページへと大幅に内容も増加しています。「必ず電話してから受診するように周知すること」や「電話や情報通信機器を用いた診療 (いわゆるオンライン診療) 」などが新たに推奨されていますが、感染対策に関しては大きな変化はないようです。

研究会・講演会の中止について

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、医療界でも研究会や講演会を延期または中止する動きが広がっています。特に先週から開催を控える動きが活発になり、2/21 (金) には日本循環器学会総会 (3/12〜15開催予定)の開催延期が発表されました。豊橋でも同様で、来週開催される予定だった研究会は全て中止の方向に向かっています。全国規模の学会はともかく、少人数で開催される研究会まで中止するのは過剰反応ではないか、といったご意見ももちろんあると思います。ただ、終息どころかまだまだ拡大を続けそうな状況下で、万が一医療関係者の中で感染拡大が起こってしまうと地域の医療体制に深刻な影響を与えかねないので、個人的にはやむを得ない措置ではないかと考えています。
なお、2/25 (火) には政府によって新型コロナウイルス感染症に対する「基本方針」が決定されるようですので、この発表を受けて豊橋医師会でも早急に対応を協議することになるかと思います。

CAD合併心房細動について考える会

1/30 (木) には「東三河 CAD合併心房細動について考える会」が開催されました。ご存知の方も多いかと思いますが、日本国内で行われた大規模臨床試験であるAFIRE研究の結果が昨年のヨーロッパ心臓病学会のHot Line Sessionで発表され、同日にThe New England Journal of Medicine (NEJM) 誌に掲載されました。AFIRE研究は、安定した冠動脈疾患を合併する心房細動患者を対象に経口抗凝固薬リバーロキサバン単独とリバーロキサバン+抗血小板薬併用との比較を行った多施設共同のランダム化比較研究です。約2年間の観察期間において、有効性の一次エンドポイント (脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を必要とする不安定狭心症、総死亡の複合エンドポイント) ではリバーロキサバン単剤療法群の併用療法群に対する非劣性が証明されるとともに、安全性の一次エンドポイント (重大な出血性合併症) においても、リバーロキサバン単剤療法群の併用療法群に対する優越性が証明されました。簡潔に言えば「効果は同じで副作用が少ない」といったところでしょうか。循環器領域で日本人の臨床研究がNEJM誌に採択されたのは久しぶりとのことで、専門医の間ではかなり盛り上がっているのですが、今回は広く非専門医の先生方にも知っていただくために、AFIRE研究の共同執筆者である九州大学病院 循環器内科講師の的場哲哉先生をお招きして「CAD合併心房細動患者に対する抗血栓療法のパラダイムシフト 〜AFIRE Studyの結果をふまえて〜」という演題名でご講演を賜りました。的場先生には、研究の背景となった抗血栓療法に関する最近の知見を紹介していただいた後に、AFIRE研究の研究デザインや結果、さらにはMEJM誌に掲載されるまでの裏話について、大変わかりやすく解説していただきました。特に「これまでの臨床研究の多くは“薬剤を増やす”ことに重点を置いていたのに対し、AFIRE研究は“薬剤を減らす”ことの意義を証明した研究です」という先生の言葉に強い感銘を受けました。ポリファーマシーの弊害が叫ばれている今だからこそ、我々かかりつけ医も改めて個々の患者さんの処方について考え直す必要がありそうです。
また今回は、会の後半をパネルディスカッション「CAD合併AF患者の抗血栓療法について考える」と題して的場先生を混じえてディスカッションを行い、私もパネリストとして参加させていただきました。私からは「慢性期 (12ヶ月以降) のCAD合併AF患者の抗血栓療法について考える 〜かかりつけ医の立場から〜」として幾つか問題提起をさせていただきました。我々としては、まず昨年公開された「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン (2018年改訂版)」に掲載されている「図8 PCI後の抗血栓療法」を知っておくことが重要と思われます。

実はガイドラインはAFIRE研究の発表前に公開されていますが、「12ヶ月以降は抗凝固薬 (OAC) 単剤」というガイドラインの推奨が正しいことをAFIRE研究が証明したと言えます。ただし全ての症例をOAC単剤して良いのか、と言えばまだ心配な面もあるのが実情です。例としては、① 第一世代の薬剤溶出性ステント (DES) が留置されている症例や、② 左冠動脈主幹部にDESが留置されている症例、③ 虚血性脳卒中 (アテローム血栓性梗塞やラクナ梗塞) の既往がある症例、などが挙げられると思います。ただしこれらの症例はAFIRE研究の中にも少なからず含まれていますので、今後サブ解析の結果が明らかになればこれらの疑問も解決されるかもしれません。最終的に、抗血小板薬を中止して良いかどうかの判断はPCIやCABG (冠動脈バイパス術) を行った先生と十分な連携を取りながら行うべきでしょう。多くの症例はPCI・CABG施行後一定期間 (6〜12ヶ月) で冠動脈造影や冠動脈CTを行いますので、検査結果のやり取りの際に確認しておくのが良いかもしれません。
この日はあいにく複数の研究会と重なってしまったため、若干参加人数が少ない印象はありましたが、総合討論でも活発な意見が交わされ、大変有意義な会になったと思います。最後になりましたが、的場先生、本研究会の座長をしていただいた豊橋ハートセンターの寺島充康先生、同じくパネリストとして急性期の症例提示をしていただいた豊橋市民病院 循環器内科の成瀬賢伸先生に厚くお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
 
 

高齢者心房細動のトータルケア講演会 “その2”

さて、引き続き「第二回高齢者心房細動のトータルケア講演会 〜抗凝固療法はどうあるべきか〜」の話題です。今回は井澤先生の特別公演に続いて行われたパネルディスカッション「高齢者心房細動のトータルケア 〜今現場ではどのように考えているか〜」についてご紹介します。パネルディスカッションでは3名の先生にご登壇いただき、各々内容を10分程度にまとめて話していただきました。
まず豊橋市民病院の冨田崇仁先生からは「アブレーションとリスク管理」というテーマで、日本人心房細動患者の平均年齢は73.9歳と高く75歳以上のアブレーション施行例が増加していること、アブレーション周術期およびアブレーション後の抗凝固療法は原則として休薬や中止はしない方針であること、などを解説していただきました。
次に豊川市民病院の鈴木健先生からは「心房細動とリスク管理 (高血圧) 」というテーマで、心房細動の発症に高血圧が強く関連していること、心房細動患者では脳塞栓・脳出血のいずれにも高血圧が深く関与していること、などを解説していただきました。
最後に渥美病院の三谷幸生先生からは「〜今現場ではどのように考えているか〜 高齢者の抗凝固療法を中心として」というテーマで、実際の症例を交えながら心房細動治療の目的 (自覚症状の改善、心不全の予防/治療、塞栓症の予防) と高齢者特有の難しさ (フレイルや認知症、ポリファーマシーやアドヒアランス低下、腎機能低下、転倒リスク、出血性疾患の並存、経済的理由や施設入所など) を解説していただきました。
その後のディスカッションでは、細川先生と井澤先生にもオブザーバーとして加わっていただき、会場のご質問も受け付けながら進行させていただきました。3名のパネリストの発表から浮かび上がった疑問点、例えば ①高齢者 (あるいは超高齢者) におけるアブレーションの適応、②高齢者の高圧目標値と薬剤選択、③超高齢者でも抗凝固療法を積極的に行うべきか否か、④フレイルや腎機能低下を有する場合の抗凝固療法の注意点、などについて議論を深めることができました。
ディスカッションの最後には座長からの話題提供として、最近欧米で行われた Apple watchを用いた心房細動検出の大規模観察試験 (11/14に New England journal of Medicineに掲載) について紹介し、無自覚の心房細動をどうやって見つけ出すか、という重要なテーマについての問題提起をさせていただきました。今後このテーマでの議論がますます深まることを期待したいと思います。
座長の不手際で、終了時間が15分ほど延長してしまいご迷惑をおかけしましたが、その分十分なディスカッションができたのではないかと思っています。井澤先生を初めとして、細川先生、冨田先生、鈴木先生、三谷先生、参加いただいた先生方、誠にありがとうございました。

高齢者心房細動のトータルケア講演会 “その1”

11/19 (火) には「第二回高齢者心房細動のトータルケア講演会 〜抗凝固療法はどうあるべきか〜 」が開催され、特別講演として藤田医科大学ばんたね病院 循環器内科教授の井澤英夫先生から「超高齢社会における心不全 心房細動治療と地域連携の課題」という演題名でご講演を賜り、その後パネルディスカッション「高齢者心房細動のトータルケア 〜今現場ではどのように考えているか〜 」が行われました。私はパネルディスカッションの座長を担当したのですが、まず井澤先生の特別講演についてご紹介したいと思います。井澤先生は心不全や心臓リハビリテーションがご専門である立場から、高齢者の心不全が爆発的に増加している現状を踏まえ、高齢者心不全の特徴 (①サルコペニア/フレイルの患者が多い、②EFの維持された心不全 (HFpEF) が多い、③疾病管理不十分により心不全が増悪する症例が多い、④心房細動を含め併存疾患が多く、包括的な治療が必要) について順を追って解説されました。先生はその中で、骨格筋の障害が心不全の運動耐用能低下 (労作時息切れ) を引き起こすことから、心不全に対する運動療法の有用性について詳しく説明されました。またHFpEFの原因として高血圧性心肥大が最も重要であることから、適切な降圧治療が必要であること、さらには心筋繊維化の抑制効果も踏まえてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 (MRA) が有望であること、を教えていただきました。後半では多職種ハートチームでの疾病管理の重要性について触れられるとともに、高齢者心房細動治療における注意点 (フレイル併存の観点からDOACの選択に関する注意点) についても解説していただきました。特にHFpEFに関しては未だ有効な治療法が見つからない現状の中で、運動療法の有効性とMRAの可能性について教えていただき、大変参考になりました。
以前にも書かせていただきましたが、井澤先生とは高校時代からのクラスメートで大学時代も同じ臨床実習グループのメンバーでした。さらには卒業後の研修病院こそ違ったものの偶然にも循環器内科という同じ専門分野を選ぶことになるなど、切っても切れない関係です。その井澤先生をこうして地元豊橋の講演会にお招きできるのは大変嬉しい限りです。井澤先生の今後の益々の活躍を祈念しております。
なお後半のパネルディスカッションの内容については“その2”で詳しく紹介させていただきます。

高血圧ガイドライン (2)

しばらくご無沙汰してしまい申し訳ありませんでした。今回は以前ご紹介した「高血圧治療ガイドライン2019」(JSH2019) について改めて考えます。JSH2019ではクリニカルクエスチョン(CQ) に対するシステマティックレビュー(SR) を実施し、その推奨文を作成する方式を採用していますが、今回はその中からCQ7の「冠動脈疾患合併高血圧患者の降圧において、拡張期血圧は80mmHg未満を避ける必要があるか?」を取り上げたいと思います。
本文中の解説では、まずシステマティックレビュー・メタ解析の結果から収縮期血圧を130mmHg未満に低下させることの重要性を強調しています (心不全を30%、脳卒中を20%、心筋梗塞や狭心症を10%抑制)。一方で冠動脈への血流は拡張期に維持されるため、降圧により拡張期冠灌流圧が下がると心筋虚血を引き起こし心イベントが逆に増加する (Jカーブ現象) 可能性が懸念されています。実際に幾つかのRCTの後付け解析や観察研究では拡張期血圧が55〜70mmHg未満になると心血管イベントの増加がみられているのですが、これらの結果は前向きに降圧目標をたてて行ったものではないため、そのまま鵜呑みにすることはできません。
そこでJSH2019では拡張期血圧が80mmHgを達成したRCTを抽出してシステマティックレビューを行っていますが、死亡率の低下は認められませんでした (心不全や冠動脈血行再建は有意に減少)。その他、INVEST試験の後付け解析とCREDO-KYOTOレジストリーについても詳細な解析を行った結果、Jカーブ現象の本質は、冠動脈狭窄病変による心筋虚血に加えて、併存する疾患のために ①もともと拡張期血圧が低い、②降圧治療により過剰に血圧が下がりやすい症例では心血管イベントリスクが高い、という「因果の逆転」である可能性が高いという結論に至っています。すなわち拡張期血圧が低いことは心イベントの原因ではなく、心イベントを起こしやすいというマーカーである可能性が高いと言えます。
最終的な結論として、冠動脈疾患を有する高血圧患者さんにはまず130mmHg未満の降圧を優先して行い、その際に拡張期血圧が80mmHg未満に下がってもまず心配はいらないということでしょう。ただし70mmHg未満まで下がる場合は、現時点でエビデンスがないため、その患者さんの持つ病態 (心筋虚血、高度動脈硬化、全身の動脈硬化性疾患、心不全、CKDなど) と併せて慎重に降圧する必要がありそうです。
 

第9回豊橋ライブOMTコース

6/20 (木) に、第7回豊橋ライブ OMT (Optimal Medical Therapy) コースが開催され、例年通り徳島大学循環器内科 佐田政隆教授と一緒にコース世話人を務めさせていただきました。OMTコースが豊橋内科医会との共催で開催されるようになってから今年で5年目を迎え、毎年40名前後の先生に参加していただけるようになっています。
まず第一部では「弁膜症はどこまでカテーテル治療で治せるか」という演題名で、豊橋ハートセンター循環器内科医長の山本真功先生にご講演を賜りました。やや刺激的なこのタイトルは、TAVI (経カテーテル大動脈弁植込術) に加えてMitraClip (経皮的僧帽弁形成術)も保険での診療が可能となった現状を、広くかかりつけ医の先生に紹介していただくために私からお願いしたものです。先生はまず井上バルーンによるPTMC (経皮的僧帽弁交連裂開術) から紹介され、ついでTAVIへと話を進められました。TAVIに関する多くの大規模臨床試験の結果からその有効性と安全性が明らかになるにつれて、その適応も徐々に広がりつつあります。山本先生ご自身はすでに600例を超える症例実績があるとのことですので、日本でも有数の症例数ではないでしょうか。またMitraClipに関してもすでに豊橋ハートセンターで開始されており、海外の大規模臨床試験の結果からもかなり期待が持てそうです。最後のスライドで、山本先生は「弁膜症はどこまでカテーテル治療で治せるか」という問いに対し、「全部!」と答えられた後に「だったらいいなあ〜」と付け加えられて講演を終了されました。今後この分野が益々発展し、先生の希望が叶うことを循環器診療に携わる者として願っています。
第二部では佐田教授自らご登壇いただき、「油博士が語る!食べて健康スーパーオイル 〜これで患者も先生も健康長寿〜」という演題名でご講演を拝聴することができました。佐田先生にはOMTコースの前身である長期予後改善コースの頃に一度ご講演いただいたことがありますが、その後はずっと座長席に留まっておられました。今回は「佐田先生の話を聞きたい」という多くの先生の希望を受けて、満を持しての登場となりました。先生のお話は決して簡単な内容ばかりではないのですが、疫学研究と介入試験、さらにはご自身が行った基礎および臨床研究の結果を上手にまとめられて話をされるため、大変理解しやすく興味の尽きない講演となりました。n-3 (ω-3)系多価不飽和脂肪酸、中でもEPAは大規模臨床試験の結果からスタチンの残余リスクを減らし得る貴重な一手となる可能性があります。佐田先生は、EPAには接着因子の抑制や病的な血管新生の抑制、さらにはMMP-1の発現抑制によるプラークの安定化や血小板機能の改善等、多くの抗動脈硬化作用があることを基礎実験の結果から示されました。またEPA単独が良いかEPA+DHAが良いかについても、ご自身の研究結果からはっきりとした見解を述べられていたのが印象的でした。n-3系多価不飽和脂肪酸は食品から積極的に摂取することが望まれますし、薬剤としてもさらなるエビデンスの蓄積が期待できそうで、動脈硬化予防の分野に大きな希望を抱かせる講演内容でした。佐田先生は「油博士」として様々なテレビ番組にも紹介されていますが、「油」に限らず動脈硬化研究において日本の第一人者の先生ですので、これからも是非定期的にご講演いただければと思います。
おかげさまで今回のOMTコースも盛況のうちに会を終えることができました。ご講演いただいた佐田先生、山本先生、ご参加いただいた先生方、そしてコースの運営にご協力いただいたスタッフの方々、本当にありがとうございました。

高血圧治療ガイドライン2019

3月下旬には日本循環器学会総会、先週末(4月下旬) には日本医学会総会・日本内科学会総会・日本血管不全学会総会と大きな学会が続きました。もちろんそれらの内容もお伝えしたいのですが、今回は4月25日に5年ぶりに改定された「高血圧治療ガイドライン2019」(JSH2019) について取り上げたいと思います。とは言え、私もガイドラインを手に入れたばかりで全てを理解した訳ではありません (今回のガイドラインは281ページもある超力作です!) 。ただしそのエッセンスはすでにネットニュース等で紹介されていますので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
まず最大の関心事は「高血圧基準値に変更があるか否か」でした。ご存知のようにアメリカのガイドライン (ACC/AHA高血圧ガイドライン2017) は、SPRINT試験の結果を受けて高血圧基準値を従来の140/90mmHgから130/80mmHgに引き下げました。一方で昨年改定されたヨーロッパのガイドライン (2018 ESH/ESC高血圧ガイドライン) では高血圧基準値自体は140/90mmHgに維持し、その代わりに降圧目標値を120〜130/70〜79mmHgに厳格化する方式をとってきました。結論から言えばJSH2019はヨーロッパのガイドラインにより近く、高血圧基準値では140/90mmHgを堅持した一方で、合併症のない75歳未満の成人の降圧目標値を130/80mmHg未満へと強化しています。この理由はいくつか考えられますが、まずガイドライン第2章「血圧測定と臨床評価」の中に記載されているように、米国のガイドライン変更の元となったエビデンスは全て欧米のものであり、わが国でのRCT (ランダム化比較試験) がほとんど存在しないことが挙げられます。他には、SPRINT試験で用いられたAOBP (自動診察室血圧測定) が通常の診察室血圧測定とは異なること (AOBPの方が10/4mmHgほど低いという報告があります) や、AOBPが日本ではほとんど普及しておらず今回のガイドラインでは血圧測定法として採用されなかったこと、も影響しているのではないでしょうか。以下に降圧目標値が130/80mmHg未満の対象者を挙げておきます。
① 75歳未満の成人
② 脳血管障害者(両側頚動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)
③ 冠動脈疾患患者
④ CKD患者 (蛋白尿陽性)
⑤ 糖尿病患者
⑥ 抗血栓薬服用中

なお、75歳以上の高齢者の降圧目標も140/90mmHg未満となり、JSH2014と比べて強化されている点にも注意が必要です。以下に降圧目標値が140/90mmHg未満の対象者を挙げておきます。
​① 75歳以上の高齢者
② 脳血管障害者 (両側頚動脈狭窄や脳主幹動脈の閉塞がある、または未評価)
③ CKD患者 (蛋白尿陽性)

JSH2019では、血圧値の分類にも変更がありました。具体的には診察室血圧が120/80mmHg未満のみを「正常血圧」と定義し、従来の正常血圧 (120-129/80-84mmHg) を「正常高値血圧」に、従来の正常高値血圧 (130-139/85-89mmHg)を「高値血圧」に、それぞれ変更しています (厳密には拡張期血圧の区分も若干変更されています)。また診察室血圧における高血圧の分類 (I〜III度)に変更はありませんが、新たに家庭血圧にも高血圧の分類 (I〜III度) が加わりました。ただしこの血圧値は単純に診察室血圧から5mmHg引いた値ではない点に注意が必要です。血圧値の分類に関しては分かりづらいと思いますので、詳細はガイドラインをご参照下さい。
それ以外にもJSH2019の特徴として、クリニカルクエスチョン (CQ) 17項目に対するシステマティックレビュー (SR) を実施し、その推奨文を作成する方式を一部採用していることが挙げられます。またエビデンスが十分でないものの多くの医療従事者が疑問に思っているクエスチョン(Q) 9項目についても回答 (コンセンサスレベル) を行なっています。私が特に気になったCQはCQ7の「冠動脈疾患合併高血圧患者の降圧において、拡張期血圧は80mmHg未満を避ける必要があるか?」と、CQ8の「心筋梗塞または心不全を合併する高血圧患者において、ACE阻害薬はARBに比して推奨されるか?」です。前者はいわゆる「Jカーブ現象」について、後者は二次予防患者に対する「ACE阻害薬とARBの同等性」について、これまでより踏み込んだ回答を行なっています。ページの都合もありますので、これらについては次回以降に詳しくご紹介したいと思います。
いずれにせよ降圧目標値が変更になったことで、これまでよりも厳格な降圧が必要となる場面がかなり増加するのではないかと思われます。急に降圧目標値が厳しくなることに対して疑問を持たれる患者さんも少なからずいらっしゃると思いますので、丁寧に説明を行い十分に納得していただく必要があると思っています。

東三医学会

3/2 (土) には第41回東三医学会が開催されました。この会は東三河医師会連合が主催して行われるもので、毎年3月の第1土曜日に開催されています。普段行われている東三学術講演会とは異なり製薬メーカーの共催はなく、文字通り東三河の医師たちが一から作り上げている学会形式の会で、私も数年前から準備会のメンバーとしてプログラムの作成や当日の進行に携わらせていただいています。
例年東三河地域の病院や診療所から25題前後の演題応募がありますが、今年も26題の応募が集まりました (残念ながら1題は発表の先生が体調不良のため取り下げとなり、実際の発表は25題でした)。今年は例年以上に参加者が多く、参加者総数は100名を超えました。それに伴いdiscussionも活発に行われ、例年以上に活気のある会となりました。
東三医学会の良い点はたくさんあるのですが、何と言っても東三河地区の様々な医療機関の発表を一度に聴ける点が挙げられます。中でも豊橋市民病院や豊川市民病院といった基幹病院の発表を聴くと、専門以外の診療科でどのような最新治療が行われているのかがわかるので、自院の患者さんを紹介する際に大変参考になります。
また自院では遭遇しないような希少疾患の診断・治療についての発表を聞くと、改めて診断の難しさや医療の奥深さを思い知らされます。我々は普段から頻度の高い疾患をまず念頭において病気の鑑別診断を行っています。もちろんその方が効率よく診断できることが多いのですが、一方でこの思考を毎日繰り返していると、知らないうちにアベイラビリティー・バイアス(よく見る病気を真っ先に考えるため推論に歪みが生じること)を引き起こしてしまう危険性が高くなります。特に頻度は低いものの決して見逃してはいけない疾患(レッドフラッグと呼ばれています)を確実に診断できるように、普段から自分自身に「たゆまぬ監視の眼(incessant watch)」を向ける必要があると強く感じました。また、東三河には診療所でも専門性の高い診療を行っている医療機関がたくさんあります。今年は耳鼻咽喉科と脳神経外科の医療機関からそれぞれ発表があり、私自身も大変刺激を受けました。
なお今回は田原市医師会が当番でしたが、次回は蒲郡市医師会が当番で3/7 (土) に開催する予定です。来年度も今回以上に多数の演題応募ならびに多数の先生のご参加をお願いいたします。

第2回高血圧診療マスタークラス講習会

年末年始のためか、12月下旬から1月中旬にかけて研究会の開催も少なくなっていましたが、1月下旬からは普段通り週1〜2回の割合で研究会や講習会に参加しています。そんな中、2/17 (日) には「第2回高血圧診療マスタークラス講習会」が東京で開催され、私も出席してきました。以前にもお伝えしましたが、この講習会は高血圧診療に関する標準的な知識や最新情報を提供するために日本高血圧学会が主催しています。第1回は昨年7月に行われ、前半の4講座はすでに修了していましたが、今回は後半4講座を聴講し、無事全8講座を修了することが出来ました。
今年は5年に1回の高血圧ガイドライン改定年に当たっているため、講習会でも新ガイドラインの詳しい話が聞けるのではないかと期待していましたが、4/19の正式発表までは詳細を公表することは出来ないそうで、若干肩透かしを食った感じでした。とは言え、今回のプログラムも「診療のポイント〜お勧めの検査とその読み方〜」、「最新診療 (遠隔診療、遺伝子診療、腎除神経について) 」、「合併症のある高血圧と高齢者高血圧診療の極意」、「挙児希望、妊娠、授乳、閉経期の女性が来院したら」と盛り沢山で、高血圧診療に関する知識のブラッシュアップに大変役立ちました。個人的には旭川医科大学 循環・呼吸・神経病態内科学教授の長谷部直幸先生(長谷部先生は昨年の日本高血圧学会総会の会長を務められた重鎮です)がお話しされた「合併症のある高血圧と高齢者高血圧診療の極意」の講座が特に印象に残りました。先生お得意の川柳を交えながらのご講演はいつもながら大変面白く、かつ役立つ知識が満載でした。例えばSPRINT試験で行われたAOBP (自動診察室血圧測定) という方法と、我々が普段診察室で行なっている血圧測定ではどのくらい値が異なるのかを実際に調べられ、診察室血圧の方が10/4mmHg高いことを教えていただきました。このことはSPRINT試験で推奨されている120/80mmHgという血圧値を普段の診療に当てはめると130/84mmHgに相当することを意味します。それ以外にも、高血圧がI度、II度、III度と進展するにつれて心血管疾患のリスクが3倍、6倍、9倍と上昇することや、CKD (慢性腎臓病) では血圧を130/80mmHg未満に下げるとその進展抑制が期待できること、ACCORD-BP試験のpost-hoc解析から糖尿病患者でも積極的降圧治療の有効性が期待できること、など明日からの診療にすぐに利用したい内容ばかりでした。
全8講座を修了すると「講習会修了証」が頂けるそうなのですが、有効期間は4年間とのことです。さらに更新をするためには、今後も日本高血圧学会総会や臨床高血圧フォーラムに定期的に参加することが求められます。引き続き最新の情報を得て最良の高血圧治療が出来るように努めたいと思います。

豊橋循環器疾患研究会

10/30 (火) には豊橋循環器疾患研究会が開催されました。この会には「循環器疾患」という名称がついていますが、主に循環器内科を専門とするかかりつけ医が集まって、糖尿病治療について勉強するために企画されたものです。今回は「2型糖尿病治療の薬物療法:第一選択薬は?」という演題名で朝日生命成人病研究所附属病院 糖尿病内科治験部長の大西由希子先生からご講演を賜りました。大西先生はもちろん糖尿病専門医としても非常にご高名なのですが、同時に3人のお子さんを育てながら臨床の第一線で活躍されているということで、糖尿病学会のホームページ上 (女性糖尿病医サポートの取り組み) で紹介されたり、様々なマスコミにも登場されるなど大変ご活躍中の先生です。
まずご講演では、我々が日常よく遭遇するような代表的な症例を3例 (① メタボリックシンドローム合併患者、② 独居高齢患者、③ 著しい高血糖患者) 挙げられ、それぞれの症例にどのような薬剤を選択すれば良いかを、最新のエビデンスを交えながら大変わかりやすく解説していただきました。
ご講演を拝聴した後には、discussionの時間を30分ほど設けていただきました。かかりつけ医の先生には事前にアンケートを取らせていただき (① 糖尿病治療を行っている患者さんの中で心血管イベントの既往歴を有する患者さんは何%程度か、② 糖尿病治療における薬剤選択の際に特に重要視している点は何か、③ 実際に第一選択薬として最も使用している薬剤は何か)、そのアンケート結果を基にしてdiscussionを進めたのですが、我々だけでは心もとないため、糖尿病専門医である杢野武彦先生にも研究会に参加していただきました。その結果、我々が普段疑問に思っている点や治療に関して迷っている点について大西、杢野両先生からコメントをいただくことができ、大変充実したdiscussionになったと思います。
大西先生とは会が始まる前の雑談の中で、普段の仕事内容からお互いの子育てのことまで楽しくお話をさせていただきました。先生のますますのご活躍を祈念しております。

JAPAN CARDIOLOGY CLINIC Network

1ヶ月ほど前になりますが、心臓病学会学術集会の開催に合わせた9/8 (土) に「JAPAN CARDIOLOGY CLINIC Network」の懇親会が大阪で開催され、私も参加してきました。本会は、日本全国で地域医療を支えている循環器クリニックの情報交換やネットワーク作りの場として企画され、「医療法人社団ゆみの」の弓野大先生と「大西内科ハートクリニック」の大西勝也先生が発起人となって今回実現したものです。当日は全国各地から約30名の先生が集まり、様々な話題で盛り上がりました。長い間大学病院や地域の基幹病院で循環器専門医として活躍されていた先生が多く、クリニックを継承するために実家に戻られたり、あるいは地域の循環器診療を担うために開業されたという経緯が数多く聞かれました。お互いBackgroundが近いせいか話も合いやすく、地域の循環器診療のレベルをどう保っていくか、今後爆発的に増加するであろう心不全患者さんの在宅管理をどのように行っていくか、など活発な意見交換を行うことが出来ました。今後は循環器学会や心臓病学会の日程に合わせて継続して懇親会を開催していく予定とのことでした。次回以降も可能な限り参加させていただき、全国の循環器クリニックのネットワーク構築に微力ながら協力したいと思います。

高血圧診療マスタークラス講習会

少し前になりますが、7/29 (日)に「第1回高血圧診療マスタークラス講習会」が東京で開催され、私も参加してきました。この講習会は日本高血圧学会が主催するもので、高血圧診療に関する標準的な知識や最新情報を提供するための試みとして、初めて開催されました。第1回の定員は100名で、比較的少人数の参加者を対象に、9:30から昼食休憩を挟んで16:40まで (!) みっちり講習が組まれていました。必ずしも高血圧診療を専門にしない医師も対象となっていたため、参加者の構成としては約半数が高血圧学会の会員、残りの半数が非会員だったようです。
肝心の内容は、専門外の先生も対象にしているとはいえなかなか濃密で、私自身としては高血圧診療に関する知識のブラッシュアップに大変役立ちました。実際のプログラムは「知っていると得する疫学と分類・評価・目標」、「これだけは押さえたい降圧薬療法の実際」、「二次性高血圧、治療抵抗性高血圧をどうするか?」、「患者を惹きつける生活習慣指導 (減塩と運動のコツ)」の4部構成で、それぞれが90分間の講義形式でした。講師陣はご高名な先生方ばかりでしたが、少人数の講習会だったこともあり比較的和やかな雰囲気の中で行われたという印象です。個人的には東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科学教授の市原淳弘先生が話された二次性高血圧のご講演が大変役立ちました。私も比較的年齢の若い高血圧患者さんが初診で来られた際には、念のため二次性高血圧のスクリーニング検査を行うことが多いのですが、原発性アルドステロン症の検査の中でアルドステロン/レニン比 (ARR)>200かつアルドステロン濃度≧170の場合にはアルドステロン産生副腎腺腫 (手術が可能) である可能性が高いことを教えていただきました。また褐色細胞腫のスクリーニング検査では、血漿フリーメタネフリンが最も優れているにも関わらず残念ながら保険未収載のため行えないこと、現時点では随時尿メタネフリン・ノルメタネフリンがbetterであること (ただしクレアチニン補正が必要) なども新しい知識として吸収することができました。
今後マスタークラス講習会は2回/年ずつ行われる予定のようです。今回は前半の4講座が終了しましたが、来年2月開催予定の第2回講習会で後半の4講座を全て受講すると講習会修了証を申請できるとのことです。ちなみに残りの4講座とは「診療のポイント〜お勧めの検査とその読み方〜」、「合併症のある高血圧と高齢者高血圧診療の極意」、「挙児希望、妊娠、授乳、閉経期の女性が来院したら・・・」、「最新診療 (遠隔診療、遺伝子診療、腎除神経、サプリメントについて)」だそうです。いずれも興味深いタイトルばかりですので、今から来年2月の予定を空けておく必要がありそうです。

病診連携漢方講演会

5/17 (木)には豊橋ハートセンター病診連携漢方講演会が開催され、「循環器領域で役立つ漢方治療」という演題名で東邦大学医療センター大森病院の戸田幹人先生にご講演いただきました。
循環器診療ではエビデンスに基づいて治療戦略を立てることが多いため(いわゆる欧米型の治療です)、漢方とは縁遠い領域のように思われていますが、今回の講演会はその循環器領域の漢方治療に焦点を当てている点が非常におもしろいと感じました。さらに、その講演会を主催したのがインターベンション治療で全国有数の医療機関であり、漢方治療とは対局に位置する医療機関であると思われがちな豊橋ハートセンターであるという点もまた興味深いところです。
神戸大学の岩田健太郎先生や神戸海星病院の北村順先生は、循環器診療における漢方の役割を「通常の治療では埋められない隙間を埋め、患者さんの満足度を上げること」と述べていますが、今回の戸田先生のご講演も、患者さんの諸症状を軽減するためにはどの漢方薬を用いたら良いかという実践に即した内容でした。戸田先生は、自ら漢方薬の服用により体調が著しく改善した体験から話を始められ、その後で様々な病態に効果的な漢方薬を数多く教えていただきました。もちろん漢方薬を効果的に効かせるためには「証」を正しく判断することや「気血水」の概念をきちんと取り入れることが重要だと思いますが、戸田先生は漢方診療に詳しくない我々でも理解しやすいように、極力難しい理論は抜きにして解説していただきました。例えば、同じ低血圧という病態でも、冷え性でめまいや心悸亢進がある場合は苓桂朮甘湯 (りょうけいじゅつかんとう) が良く、体力が低下している場合は補剤である補中益気湯 (ほちゅうえっきとう) が良い、といった具合です。戸田先生が推奨された処方の中で個人的に私が試してみたいと思ったのは、心筋梗塞後の諸症状に対する柴胡加竜骨牡蛎湯 (さいこかりゅうこつぼれいとう) 、下肢の冷えに対する当帰四逆加呉茱萸生姜湯 (とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう) 、慢性下肢虚血に対する黄耆建中湯 (おうぎけんちゅうとう) といったところでしょうか。既存の治療だけでは十分に抑えられない症状に対し、漢方薬を使用することで少しでも改善されるのであれば是非積極的に使用してみたいと感じた1時間でした。戸田先生、そして今回の講演会を企画して下さった豊橋ハートセンターの松原徹夫先生、大変ありがとうございました。

2018学会シーズン

例年3, 4月は学会シーズンです。今年も3/23(金)〜25(日)には大阪で日本循環器学会学術集会が、4/13(金)〜15(日)には京都で日本内科学会総会・講演会が開催されました。あいにく日程の都合で循環器学会は土曜日午後しか参加できず、会長 (大阪大学心臓血管外科学 澤芳樹教授) 講演の一部とCoffee Break Seminarしか聴講することが出来ませんでした。とはいえ「Onco-Cardiology」というがん治療に関連する心血管疾患についてのセミナーは大変興味深く、今後人口の高齢化に伴いがん患者数は増加することが想定され、抗がん剤治療を行う患者数も増加する可能性が高いことを考えると、我々かかりつけ医もその存在を頭に入れておく必要があると感じました。
内科学会へは日曜日一日出席出来たので、もう少しゆっくり参加することが出来ました。私は、内科学会に参加する際はなるべく専門外(循環器内科以外)の講演を数多く聴いて、様々な知識を手に入れようと心がけています。特に内科学会の招待講演や教育講演は、その分野におけるトップランナーの先生方が20分〜40分という短い時間内に要点をまとめて下さるので大変助かります。もちろん自分の知識が追いついていない分野も多いので全てを把握することは難しいのですが、それでも最新の話題について聴講していると、常に知識をブラッシュアップしていく必要性があることを強く感じます。今年は招待講演5と教育講演14〜20を聴講しましたが、筋萎縮側索硬化症 (ALS) の遺伝子解析結果による疾患概念の変化、多発性筋炎・皮膚筋炎 (PM/DM) に関連する新たな自己抗体 (杭ARS抗体や杭MDA5抗体) と間質性肺炎との関連、肝癌治療における新規分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の有用性、急性腎障害の早期診断法としての尿中L-FABPやNGALの有用性や新たな治療法としてのアンジオテンシンIIや迷走神経刺激の可能性、など大変興味深く拝聴しました。来年は是非循環器学会、内科学会ともに泊まりがけで参加出来るように調整したいと思います。

3/14東三学術講演会

3/14 (水) には東三学術講演会が開催されました。今回の講演会では慢性腎臓病 (CKD) をテーマとして、ミニレクチャーと特別講演の2演題が企画されていました。まずミニレクチャーでは、成田記念病院副院長の大林孝彰先生から「糖尿病性腎症の動向」という演題名でご講演をいただきました。大林先生には、これまでの「糖尿病性腎症」から「糖尿病性腎臓病 (DKD)」という新しい概念について解説していただきました。「糖尿病性腎症」は微量アルブミン尿、顕性蛋白尿を経てネフローゼとなり、腎機能が悪化して末期腎不全に至る、という経過をとることが知られていますが、最近では尿蛋白が明らかでなくクレアチニンのみが上昇していくケースも少なくありません。これは高齢化や高血圧の合併などによる腎硬化症の側面が強いためと考えられており、「糖尿病性腎症」ではなく、もっと広く腎障害を捉えて「糖尿病性腎臓病」と呼んだらどうかということのようです。確かにこの方が実際の臨床現場に即しているような気もしますので、今後議論が活発に行われ、この新しい概念が広まっていくことが期待されます。
続く特別講演では「CKDの早期診断と治療戦略」という演題名で、名古屋大学医学系研究科 病態内科学講座腎臓内科学教授の丸山彰一先生からご講演をいただきました。丸山先生が来豊されるのは3回目ですが、いつも臨床に直結するデータやガイドラインについてわかりやすく解説していただけるので大変助かります。今回のご講演の中では、特に専門医への紹介基準と降圧療法についての内容が興味深く、新たな知識を得ることができました。
CKDの重症度分類では蛋白尿の程度によりA1〜A3ステージに、また腎機能 (eGFR) によりG1〜G5ステージに分けられています。丸山先生は、CKDのA1, A2, A3ステージの間には予後に明確な差がある一方で、G1-2とG3aの間には予後に差はなく、G3bから有意に悪化することを示されました。そのため、今年改訂される新たなCKDガイドラインでは紹介基準を簡素化し、GFR区分ではG3bステージ (GFR 45ml/分/1.73m2未満) での専門医紹介となるようです。この値はクレアチニンに換算すると60歳男性で1.3、60歳女性で1.0に相当するそうです。ただ丸山先生は、仮にこの値での紹介が難しい場合でもG4ステージ (GFR 30ml/分/1.73m2未満) では必ず紹介して欲しいと仰っていました。ちなみにこの場合だとクレアチニン換算で60歳男性 2.0、60歳女性 1.5に相当するそうです。
降圧療法については、昨年改訂されたACC/AHAの高血圧ガイドラインにも触れながら至適血圧レベルについて解説され、現状では130/80mmHg未満という厳格な降圧目標がよいのではないかと説明されました。また先程の大林先生のお話にも触れられながら、糖尿病性腎症 (糸球体障害) と非糖尿病性CKD (腎硬化症) に分けて解説されました。糸球体障害が主体の場合、糸球体内圧の増大による過剰濾過説 (hyperfiltration theory) に基づき、輸出細動脈を拡張し糸球体内圧を下げるRA系抑制薬が推奨されています。しかし腎硬化症が主体の場合は、動脈硬化が原因で輸入細動脈が狭窄している可能性があります。この場合は糸球体が虚血に陥っているため、RA系抑制薬よりもCa拮抗薬がよい可能性があるとのことです。実際の臨床で考えると、糖尿病があっても蛋白尿が全く認められない場合やRA系抑制薬を使用してクレアチニンが大きく上昇する場合は、RA系抑制薬ではなくCa拮抗薬による降圧を考えた方がよいのかもしれません。
丸山先生は大学時代の同級生でよく下宿を行き来していたこともあり、懇親会でも大変楽しい時間を過ごさせていただきました。丸山先生、大変お忙しい中時間を割いていただきありがとうございました。またの来豊をお待ちしています。

Type 1 Round Table Meeting

12/8 (金) には「Type 1 Round Table Meeting」という少人数の会が開催され、「1型糖尿病医が伝えたい3つの事」という演題名で刈谷豊田総合病院内分泌・代謝内科の服部麗先生からご講演を賜りました。今回は1型糖尿病に関する会であったため、必ずしも一般の内科医向けの講演ではありませんでしたが、それでも今年一番ではないかと言える程、印象に強く残るご講演内容でした。その大きな理由の一つとして、服部先生ご自身が1型糖尿病患者であること、即ち患者側の目線と医療者の目線の両者を兼ね備えていること、が挙げられるのではないでしょうか。
先生は大学在学中に1型糖尿病を発症されており、まずご自身の経験を振り返りつつ、患者としての葛藤の日々を包み隠さずに教えていただきました。本来できるはずだったことが出来なくなるかもしれないと言う不安や失望から、一時期やけになっていた時期があったこと、特に研修医時代にはほとんど自己血糖やHbA1cを測定していなかったという事実には正直言って驚かされました。これほど医療知識を持った人でさえ自暴自棄になるのであれば、一般の方々が1型糖尿病になった場合にはどれほど不安でどれほど孤独であろうか、を考えさせるには十分なエピソードであったと思います。また、1型糖尿病患者さんの「過剰に心配されたりするのもいやだし、いちいち説明するのが面倒だから周囲の人に病気を告知しない」という心情も理解することができました。
そんな先生が患者会に参加した際に「アルマジロを救え」との講演を聞いて、まるで自分へのメッセージではないかと気付くところは本講演のハイライトであり、患者会を通じて「ひとりじゃないんだ」と感じることの重要性を改めて認識しました。そして先生からの3つのメッセージ、
・「患者」とは「病人」ではなく「仲間」である
・「インスリン」とは「治療」ではなく「生活」である
・「1型糖尿病」とは「病気」ではなく「人生」である
という言葉には深い感動を覚えました。先生は「インスリンを臨機応変に使いこなす能力」を「1型力」と名付け、この「1型力」を磨くことが患者にも医療者にも必要であり、それによって全ての1型糖尿病患者さんが幸せに暮らせるようにしたい、そんな先生の熱意を感じました。
本講演の中にはもちろん具体的な1型糖尿病の治療に関するお話もありましたが、何より先生から頂いたメッセージが強く心に残ったご講演でした。服部先生、本当にありがとうございました。次回は是非より多くの聴衆の前でご講演頂けることを願っています。

豊橋内科医会

10月は大阪や東京への出張に加え自分自身の講演の準備も必要だったため、“ドクターズトピックス”への掲載をお休みしてしまいました。今月は何とかアップしようと思いパソコンに向かっています。
11/9 (木) の豊橋内科医会は「EBMとNBMを考慮した糖尿病治療戦略 〜患者満足度を意識した医師・薬剤師の連携〜 」という演題名で、医療法人白石内科医院 院長/大阪大学内分泌・代謝内科学 特任講師の白石俊彦先生からご講演を賜りました。EBM (Evidence-based Medicine) という言葉はよく耳にしますが、NBM (Narrative-based Medicine) はあまり聞き慣れない言葉かもしれません。「Narrative」は「物語」と訳され、「NBM」は直訳すれば「物語に基づいた医療」ということになるでしょうか。患者さんが対話を通じて語る、病気になった理由や経緯、病気についていまどのように考えているかなどの「物語」から,病気の背景や人間関係を理解し、患者の抱えている問題に対して全人的 (身体的、心理的、社会的) にアプローチしていこうとする臨床手法がNBMであり、最近ではEBM一辺倒ではなく、EBMとNBMのバランスがとれた診療を行うことが求められつつあります。白石先生は、糖尿病の治療ではまず「傾聴」が重要であると述べられ、実際に先生のクリニックでは医師の診察の前に必ず栄養士・看護師・薬剤師からなる「チーム」が介入し、特に ① HbA1cが前月に比べ0.3以上上昇した場合や、② 上昇が0.3%未満でも2ヶ月以上連続して上昇した場合には、コントロールが悪化した原因がどこにあるかの聞き取り (スクリーニング) を詳しく行うそうです。その結果として男性ではアルコールが、女性では果物と餅が悪化の原因として重要であり、特に秋、冬にかけてコントロール悪化する傾向が強かったとのことです。そのため先生のクリニックでは、悪化する時期の2ヶ月前からポスター掲示や配布資料を通じて先回り指導を行ったり、待合室に掲示する資料を工夫 (食品にどのくらいの糖分が含まれているか角砂糖を使って示すなど) をして、啓発に努めているそうです。
白石先生はまた、服薬遵守率を高めるための様々な工夫 (錠数を減らす、配合錠を使用する、昼の服用をなくすなど) を行い、さらには薬剤師との連携を図ることで良質で長続きする糖尿病治療を目指しているとのことでした。実際に薬剤中断率の低下は治療満足度の上昇と、血糖コントロールの改善は服薬遵守率の向上と相関していることがクリニックのアンケートから示されており、患者さんのlife styleに合わせた治療を医師と患者さんの両者で考えていくことが非常に重要であるという結果でした。
上記の事柄は、文章にしてしまえば当たり前のことかも知れませんが、実践しようとなるとなかなか大変です。白石先生のお話の中で特に印象的だったのは、クリニックに管理栄養士が10名も勤めていらっしゃるという点でした。先生がいかにNBMおよびチーム医療を重視されているかがわかるポイントであり、なかなか他院では真似できない取り組みだと実感しました。白石先生、診療が大変お忙しい中豊橋までお越し頂き大変ありがとうございました。先生の益々のご活躍を祈念しております。
 

アクセスミーティング

製薬メーカーのMRさんに聞くと、豊橋は全国的にみても研究会や勉強会が盛んな地域だそうです。もちろん、駅に隣接したホテルの会場で100名近くの先生方が参加する大きな研究会もありますが、中にはかかりつけ医同士で行うこじんまりした勉強会もあります。今週はそういった勉強会の一つである「アクセスミーティング」に参加してきました。この勉強会では、当番の先生が自分の専門分野 (得意分野) を生かしてプレゼンテーションを行うことになっていますが、それぞれの先生の専門性を理解して診診連携 (診療所同士の連携) に役立てようというねらいもあります。今回は、白井メディカルクリニックの白井健之助先生が「潰瘍性大腸炎を日常診療で診よう」という演題名で講演されました。潰瘍性大腸炎といえば厚生労働省の「指定難病」にも挙げられている疾患で、我々かかりつけ医にはなじみが薄い疾患のように感じますが、近年急激に患者数が増加しており「指定難病」の中では最も患者数が多いそうです。白井先生は消化器内科 (中でも消化管) がご専門ということもあり、現在30名以上の患者さんをクリニックで診られているそうです。白井先生は講演の中で、潰瘍性大腸炎の症状から診断・治療に至るまで大変わかりやすく解説されました。この疾患の正確な診断のためには大腸ファイバー検査や組織の病理所見が必要になるなど専門医以外で行うことは難しいのが実情ですが、1ヶ月以上下痢が続く場合で、特に血便を伴う際にはこの疾患を年頭に置いて大腸ファイバー検査を勧める必要があることを教えていただきました。また治療には5-ASA製剤が基本となり、さらにコントロールが困難な場合にはステロイドや免疫抑制剤を併用するのですが、かかりつけ医としてどこまで治療を行えばよいのか、さらには治療の目標をどこに置いたら良いのかなど、かなり突っ込んだ内容まで教えていただき、この疾患に対する理解が格段に進んだ気がします。また白井先生はスライドにもいろいろ工夫をこらして、我々が興味を持ち続けられるようにプレゼンテーションを行っていただきました。白井先生、本当にありがとうございました。

動脈硬化性疾患予防ガイドライン

今回は趣向を変えて「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」を取り上げてみたいと思います。ご存知の方も多いかと思いますが、6月30日に5年ぶりの改訂となる「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」が発行されました。このガイドラインは、私たちが今後約5年間にわたって脂質異常症の治療を行う際の指標となる、大変重要なものです。今回の主な改定点は5つほど挙げられていますが、実際の治療を行う上で特に重要な点は「絶対リスク評価方法の変更」と「高リスク例での再発予防の管理目標値の新設」の2点だと思います。
2012年版のガイドラインでは、NIPPONDATA80という研究のデータを元にリスク評価チャートが作成されていましたが、評価の際にLDLコレステロールではなく総コレステロールを用いる点や、リスク評価が心血管疾患の死亡率で示されている点など、現状にそぐわない点も幾つかありました。今回の改訂では吹田研究の「吹田スコア」が採用され、リスク評価も心血管疾患の発症率に変更となりました。吹田スコアは、① 年齢、② 性別、③ 喫煙、④ 血圧、⑤ HDLコレステロール、⑥ LDLコレステロール、⑦ 耐糖能異常、⑧ 早発性冠動脈疾患の家族歴、の8項目の合計点で求められますが、その得点に基づいて低リスク、中リスク、高リスクの3つのリスク区分に分類し、それぞれの区分ごとに脂質管理の目標値を定めています。吹田スコアの算出方法については、ホームページ内の「動脈硬化について」の欄に掲載しておきましたのでご参照いただければ幸いです。
また2012年版のガイドラインでは、高リスク状態であってもLDLコレステロールの管理目標値は「100mg/dL未満」までに留まっていました。しかし近年の大規模臨床試験の結果から、家族性高コレステロール血症や急性冠症候群を合併する場合では、より厳格な「70mg/dL未満」へのコントロールを考慮するという項目が新設されました。これは昨今の「the lower, the better」の考えに基づいていると思われます。
上記ポイント以外にも、家族性高コレステロール血症に関する記載の拡充や、新しいコレステロール低下薬であるPCSK9阻害薬やMTP阻害薬に関しての記載が新たに加わるなど、押さえておきたい箇所がまだまだたくさんあります。しっかりと把握した上で、今後の脂質異常症患者さんの管理に役立てていきたいと考えています。

日本循環器学会東海地方会

7/1 (土) は日本循環器学会東海地方会が名古屋で開催され、私も午前中の診療を終えてから参加してきました。通常の地方会では、各トピック別に別れた会場で一般演題を聴講することが多いのですが、今回は特に「医療安全・医療倫理に関する講演会」(DVDセッション) と「サテライト教育講演」を中心に聴講しました。
「医療安全・医療倫理に関する講演会」の単位は循環器専門医の更新に必須であり、5年間に最低1回は受けなければなりません。私はこの春に専門医資格を更新したばかりですが、早速2時間のDVDセッションを受講しました。もちろん必須の単位だからという面もありますが、こうやって改めて医療安全や医療倫理に関する意識を高めることも必要だなと感じながら聴講しました。
また今回の「サテライト教育講演」の講師陣は非常に豪華な顔ぶれでした。まず「最近のB型解離の治療方針」という演題名で社会医療法人大道会 森之宮病院 心臓血管外科部長の加藤雅明先生からご講演を頂いた後に、「わが国における心臓移植と補助人工心臓の現状と展望」という演題名で東京大学大学院医学系研究科 心臓外科学教授の小野稔先生からご講演を頂き、最後に「TAVRの現状と展望」という演題名で大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科学教授の澤芳樹先生よりご講演を頂きました。加藤先生は大動脈ステントグラフト内挿術の世界的なエキスパートの一人ですが、今回は特にB型大動脈解離後のTEVAR (胸部大動脈ステントグラフト内挿術)治療について、最新の知見を解説していただきました。小野先生は重症心不全や補助人工心臓・心臓移植の権威ですが、わが国の現状についてわかりやすく解説していただきました。特に午前中に心臓移植の手術を終えられてこの講演に駆けつけたという話を聞いて、大変感銘を受けました。澤先生も重症心不全に対する再生治療(筋芽細胞シート)や心臓移植で大変ご高名な先生で、来年の日本循環器学会総会の会長を務められることが決まっています。今回はTAVR (経カテーテル的大動脈弁置換術) の現状について、最近の大規模臨床試験の結果を交えながら解説され、今後ますます適応が拡大する可能性があることを示していただきました。
今回の地方会は名古屋大学大学院医学系研究科 心臓外科教授の碓氷章彦先生が会長だったこともあるかと思いますが、心臓外科学の権威である先生方のご講演を一度に聞くことができる機会は滅多になく、大変有意義な学会参加となりました。碓氷教授をはじめ、ご講演を頂いた先生方に厚くお礼を申し上げます。

6/28 東三学術講演会

6/28 (水)には東三学術講演会が開催されました。今回の講演会では、心不全をテーマとして一般講演と特別講演の2演題が企画されていました。私は一般講演の座長を仰せつかったのですが、豊橋ハートセンター慢性心不全認定看護師の五十嵐睦美先生から「心不全増悪を繰り返す老老介護患者の在宅療養を可能にした支援」という演題名でご講演をいただきました。豊橋ハートセンターでは、心不全チームという多職種からなるチームを結成して慢性心不全患者さんの治療・支援にあたっていることを以前にも紹介しましたが、五十嵐先生は兵庫県まで通って「慢性心不全認定看護師」という専門資格を取得され、現在心不全チームの中心となって活躍されています。今回は、入退院を繰り返していた患者さんに対してご家族や訪問看護師・介護士らと連絡を密に取り合い、体重のセルフモニタリングや塩分の制限などを進めることによって再入院を予防できた症例を提示していただき、きめの細かい指導や多職種との連携が重要であることを再認識させていただきました。
特別講演では「慢性心不全の管理にトルバプタンができること」という演題名で、安城更生病院循環器内科部長の植村祐介先生からご講演をいただきました。植村先生は自院のデータを用いながら、慢性心不全は予後の悪い疾患であること、一旦入院するとADL (日常生活動作) がかなり低下すること、再入院や死亡の予測因子としてeGFR (腎機能の指標) や血清アルブミン値 (栄養状態の指標) が挙げられることなどを示されました。また心不全治療ではうっ血を改善するために利尿剤を使用することが多いのですが、利尿剤が効きにくい (利尿剤抵抗性) 場合の原因としてやはりCKD (慢性腎臓病) や低アルブミン血症、低灌流(心機能低下) の存在があることを解説されました。さらに、新規心不全治療薬 (利尿薬) であるトルバプタンの有効性について概説されるとともに、トルバプタンの実際の開始方法、使用する際の注意点 (高Na血症の危険性が指摘されています)、慢性期の使用法についてなど、多岐にわたって詳しく説明していただきました。私自身としては、かなり腎機能が低下した状態 (eGFR 20台) でもトルバプタンが有効であることにかなり驚きを覚えました。残念ながらトルバプタンは処方を開始する際に一旦入院を必要とするため、我々かかりつけ医が最初に処方することは出来ませんが、今後病診連携によりトルバプタンを内服中の患者さんが紹介されてくることも想定されます。非専門医が安全に使用を続けるためには、トルバプタン使用患者のための連携パスの作成なども必要ではないかと感じながら拝聴しました。
実は、植村先生は私がまだ名古屋大学医学部循環器内科に在籍していた当時の学生さんで、私が医局長をしていた関係もあり、彼に卒業後の研修先についてアドバイスをしたというエピソードがあります。そんな彼が循環器内科を選んでくれて、さらには第一線で活躍されていることを大変うれしく思うとともに、時の流れを感じずにはいられませんでした。五十嵐先生と植村先生の今後の益々のご活躍を祈念し、この稿を終えたいと思います。

東三学術講演会

5/31 (水) には東三学術講演会が行われました。今回の講演会は「糖尿病勉強会」の第9回にあたるもので、テーマは「シックデイ」でした。シックデイという言葉は知っていても、具体的にどのような状況をシックデイと呼ぶのか、あるいはシックデイの際にどのように対応すべきかを的確に答えられる非専門医は少ないのではないかと思います。今回のプログラムは、15〜20分程度の演題2題に加えてパネルディスカッション (症例提示2例と質疑応答) を行うことで、シックデイに対する理解を深めようとするものでした。
まず「演題1」は、豊橋市民病院の山守先生から「シックデイ管理の基本」というテーマでご講演をいただきました。山守先生は、我々非専門医でも理解できるように、「シックデイとは」という定義から始めて「なぜ高血糖に傾くか」や「低血糖に傾くこともある」、「食事量摂取量減少の悪影響」などについてわかりやすく解説していただきました。後半は「シックデイの食事摂取」や「インスリンの調整」、「内服薬の用量調整」、「入院治療の適応」など具体的な対応方法も教えていただきました。個人的には、38度以上の発熱時にはインスリン量を5割増しにすることや、食事量が安定していないうちは食後打ちで構わないことなど、特にインスリンの調整に関する内容が大変勉強になりました。
続いて「演題2」では、杢野医院の杢野先生から「シックデイを知ってもらえるために・・・パンフレットによる啓発を考える」というテーマでご講演をいただきました。現在種々の製薬メーカーが糖尿病に関するパンフレットを作成していますが、シックデイに関するものも10種類近くあることを紹介していただきました。また杢野先生は「シックデイについて患者さんに知ってもらいたいポイント」として、① 体調不良時に注意する、② 血糖コントロールが良くても起こりうる、③ 急速に症状が悪化することもある、④ 症状のこまめなチェックが必要、⑤ 早めに主治医・医療機関に連絡をとる、の5点を挙げられました。さらに「シックデイ時に患者さん自身で行う対応」についても、① 保温・安静、② 水分・ミネラル、糖質の補給 (スープ、ソフトドリンク類など)、③ セルフチェック (検温・血圧・血糖値・食事量など)、④ 医療機関との連絡、の4点を挙げられました。こういった知識を患者さんに知ってもらうためには、普段 (体調が良いとき) から我々医療者が積極的に啓蒙を行って行くことが重要だと強く感じました。
最後にパネルディスカッションとして、私 (松井) と光生会病院の山口先生から症例提示を行いました。私の発表は「自宅で転倒後に嘔気・嘔吐が出現し、インスリンを必要とした1症例」で、入院が必要か否か、インスリンの内容と投与量をどうするか、悩みながら行った経験について紹介させていただきました。その後の質疑応答で専門医の先生方から様々なご意見をいただきましたので、私自身大変勉強になりましたし、この発表が参加された先生方のご参考になれば幸いです。
今回の「糖尿病勉強会」も大変盛況で、70名を超える出席がありました。今後もかかりつけ医にとって有益な内容を提供できるよう、世話人の一人として頑張りたいと思います。

第7回豊橋ライブOMTコース

5/25 (木) に、第7回豊橋ライブ OMT (Optimal Medical Therapy) コースが開催され、今年も徳島大学循環器内科 佐田政隆教授と一緒にコース世話人を務めさせていただきました。豊橋内科医会との共催で開催されるようになってから3年目の今年は、50名近いかかりつけ医の先生方に参加していただき、過去最多の参加人数となりました。
まず第一部では「心血管イベント抑制を目指した糖尿病最新治療と注意点」という演題名で、高槻赤十字病院 糖尿病・内分泌・生活習慣病科部長の金子至寿佳先生にご講演を賜りました。金子先生には3年前の豊橋ライブでもご講演いただいたのですが、その際の明快ではぎれのよい講演が大変好評だったため、今回もお願いすることになりました。先生は、低血糖がなくかつ食後高血糖と体重増加をできるだけ少なくして血糖コントロールを行うこと、即ち質の良いHbA1cを目指すことが重要であると強調されました。話題のEMPA-REG OUTCOME試験やLEADER試験にも言及され、SGLT2阻害薬が心保護作用を有している可能性や、GLP-1誘導体間のエビデンスの違いについて解説していただきました。なお、SGLT2阻害薬の一部では下肢切断のリスクが上昇する可能性があるため、PAD患者に使用する際には十分な注意が必要であることなど、利点だけでなく注意点も教えていただき、大変内容の濃い45分間でした。
続いて第二部は「深部静脈血栓症の診断と治療」という演題名で、岐阜ハートセンター形成外科部長の菰田拓之先生にご講演を賜りました。菰田先生はこの4月に岐阜ハートセンターに赴任されたばかりですが、この分野のスペシャリストとして大変ご高名な方で、まさにこのテーマにふさわしい人選ではないかと思います。先生はまず基礎知識として静脈還流や血栓形成について概説され、その後でDVTの症状や蜂窩織炎などとの鑑別、治療法について教えていただきました。そして残りの時間で、今回のメインイベントである「下肢静脈エコー デモンストレーション」を行っていただきました。こういった企画は通常の内科医会では難しいため、まさに豊橋ライブならではの企画だったと思います。会場の前面にベッドとエコー装置 (今回はGEさんにご協力いただきました) を置き、菰田先生の手元と実際のエコー画像を同時にスクリーンに投影することで、全ての先生方にその手技を見ていただくことが出来ました。我々かかりつけ医が下肢静脈エコーの実技を見ることは非常に稀ですので、先生方の日常臨床に少しでもお役に立てば幸いです。
おかげさまで今回のOMTコースも盛況のうちに会を終えることができました。ご講演いただいた金子先生、菰田先生、世話人をお引き受けいただいた佐田先生、ご参加いただいた先生方、そしてコースの運営にご協力いただいたスタッフの方々、本当にありがとうございました。

高血圧最新医療セミナー

5/23 (火) は「高血圧最新医療セミナー」が開催され、名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学教授の室原豊明先生から「家庭血圧から高血圧を考える」という演題名で、また岐阜大学大学院医学系研究科 循環・呼吸病態学教授の湊口信也先生から「虚血心筋保護とMuse細胞」という演題名でそれぞれご講演を賜りました。名古屋・岐阜両大学の循環器内科の教授がそろってご講演されるのは非常に珍しく、ましてやそのご講演が豊橋の地で聴講できるということで、大変貴重なセミナーとなりました。
まず講演1では室原教授のご講演を拝聴しました。室原先生は、最初に高血圧の疫学から現在の高血圧治療ガイドラインについてオーバービューされ、家庭血圧やABPM (自由行動下血圧) の重要性を指摘されました。ABPMの重要性は誰もが認めるところですが、一方で夜間就寝中に血圧計のカフが定期的に締まるため、睡眠障害が起こりやすいのが難点でした。室原先生からは、この欠点を克服すべく、産学連携によりカフを使用しない自動血圧計を開発中であることを紹介していただきました。指先にチップをはめて行うこの方法は、指尖脈波を血圧値に変換するもので、すでに国際的な精度評価試験の基準もクリアしているそうで実用化寸前といったところのようです。この血圧計を用いれば睡眠障害を起こすことなく夜間血圧が測定できるようになりますので、我々がABPMを行うハードルも随分下がりそうです。また室原先生は、現在大学病院で行われている脂肪組織由来幹細胞を用いた血管再生療法について紹介され、バージャー病や膠原病による下肢壊疽が劇的に改善する症例をご呈示いただきました。引き続き症例をリクルート中とのことですので、適応する症例がありましたら是非ご紹介したいと思います。
引き続き講演2では、湊口教授のご講演を拝聴しました。湊口先生には、ご自身のライフワークである虚血再灌流傷害と心筋保護について、膨大な研究成果をわかりやすく解説していただきました。特に、プレコンディショニングのメカニズムと様々な薬剤の効果について、ニコランジルを始めとした幾つかの薬剤の可能性についても教えていただきました。また湊口先生は、ご講演の後半で、現在積極的に取り組まれているMuse (ミューズ) 細胞の基礎的および臨床的知見について紹介されました。Muse細胞は東北大学の出澤教授らのグループにより発見された細胞で、骨髄や皮膚などの体内に元々存在し、体を構成する様々な細胞に分化できる幹細胞です。体内にMuse細胞が注入されると傷ついた臓器に集まり組織修復しますし、点滴投与なので体への負担が少ないこと、腫瘍を形成する可能性が低いこと、一つのMuse細胞製剤で多くの疾患に適用可能なことなどのメリットがあります。湊口先生は急性心筋梗塞患者にMuse細胞を投与して心機能が改善するかどうかの治験を行う計画を進めており、早ければ来年にも開始されるようです。今後の発展が非常に楽しみな領域だと感じました。
室原先生、湊口先生、今回はわざわざ豊橋までお越し頂き本当にありがとうございました。先生方のご研究が益々発展されることを祈念するとともに、早く我々の身近な臨床現場に利用できるようになることを期待しています。

健康長寿と動脈硬化フォーラム

4/12 (水) は久しぶりに名古屋の研究会に出席してきました。診療が終わってから向かったため一般演題には間に合いませんでしたが、特別講演は聴講することが出来ました。研究会の名称は「第4回 健康長寿と動脈硬化フォーラム」で、特別講演は「フォーカス!最後の心房細動診療 −Aging×Atrial Fibrillation− 」という演題名で、心臓血管研究所所長の山下武志先生から賜りました。山下先生のご講演は、流れるようなお話とインパクトのあるスライドの組み合わせが秀逸で、知らないうちに講演の中に引き込まれていくような感覚でした。
今回の講演は高齢者 (超高齢者) の心房細動治療に焦点を当てた内容で、DOACを使用して心原性脳塞栓を減らそうという一般的な講演とは一戦を画す内容でした。まず山下先生は、高齢心房細動患者の死因は脳梗塞よりも心不全の方がはるかに多く、さらに心不全よりも心臓以外の疾患(癌や肺炎など)の方がはるかに多いことを示され、脳梗塞さえ予防すればよいという風潮に対する疑問を投げかけました。その上で山下先生は、「外を見て内を診る」という言葉を用いて、まず患者さんをよく“見る”ことによりフレイルの有無を確認することの重要性を示されました。身体的フレイル (歩行速度や握力の低下)、精神的フレイル (認知機能の低下)、社会的フレイル (貧困や独居など) の観点からフレイルを多面的に捉えて評価することで、HAS-BLEDスコアなどよりも出血リスクを的確に予測できることを教えていただきました。
“内を診る”という観点では、心房細動患者の死亡リスク因子として腎機能低下、肺疾患、心不全、貧血 (出血の既往) が挙げられることを示されました。これらのリスクが高ければ高いほど、想定外のイベントが起こる頻度も高くなることから、当然DOACの使用にも十分な注意が必要となります。一方でフレイルがなくリスク因子も持たなければ、その患者さんの余命は長いことが予想されるため、積極的にDOACを使用することが推奨されます。その場合でも、すでに多くの薬剤を服用している (ポリファーマシー) 場合は、出血を始めとした有害事象が多くなるため、出来る限り薬剤を整理して減らすことが必要であることを教えていただきました。また高齢者は様々な代謝機能が落ちているため、通常用量よりも少量のDOACで十分有効かつ安全である可能性が高く、現在あるDOACでは用量を減らした治験が行われているそうです。よい結果が得られれば、高齢者 (超高齢者) 心房細動治療に新たな選択肢が加わるかもしれません。
山下先生は数々の著書でも知られる大変ご高名な先生ですが、いつ講演を聴いても新しい話題が満載で、今回も大変感銘を受けました。最後に控えめに宣伝された著書も是非購入したいと思います (笑)。

第81回日本循環器学会

3/18 (土)、19 (日) は日本循環器学会学術集会に出席してきました。今年は「次世代へつなぐ循環器病学」をテーマに金沢で開催されたのですが、例によって土曜日の診療を終えてから出かけたため、金沢に着いたのが17時を過ぎており、実質19日のみの参加となりました。それでも7:40から始まるモーニングレクチャー (高血圧診療のup to date:Sprint試験をどうとらえるか) を皮切りに、コントロバーシー (冠動脈疾患危険因子の管理:標準治療か厳密治療か)、シンポジウム (冠動脈疾患の残余リスクから新たな介入ポイントを考察する)、ランチョンセミナー (プライマリケアから始まる高血圧治療)、さらには教育セッション (突然死の原因となる致死性不整脈に対する診断と治療) と5つのセッションを聴講することが出来ました。昨年は最先端の治療に関する話題を中心に聴講したので、今年は特に実臨床に役立つ内容を聴くよう心がけました。特にコントロバーシーの会場は超満員で、会場内の先生方の熱気が伝わってくるような印象を受けました。内容も脂質・血圧・血糖の治療について、それぞれ標準治療を推薦する立場と厳格治療を推薦する立場から講演をいただき、さらに講演前後でアナライザーシステムを用いて会場の先生方の考えの変化を聞くなど、大変興味深いものでした。脂質に関する講演の中では、ほぼ同時期に行われているACC (アメリカ心臓病学会) で発表されたばかりのフーリエ試験の結果も提示され、会場内がざわつく場面もありました。
それしても国際規準の会議場のない立地条件のなかで、金沢駅東口の地下イベント広場に総合受付を設け、さらに石川県立音楽堂と能楽堂、駅周辺のホテル、複合型商業施設のシネコンまで導入した会場運営は、山岸会長をはじめとする運営スタッフのご努力に加え、地元の方々の協力なしには成し得なかったものと思います。素晴らしい学会を開催していただき、本当にありがとうございました。

Toyohashi Heart Failure Conference

2/2 (木) には第1回 Toyohashi Heart Failure Conference が豊橋ハートセンター内のハートホールにて開催されました。この会はハートセンターの寺島先生と市内のかかりつけ医数名が中心となって、心不全患者さんの病診連携を考える会として始めたものです。ハートセンターでは数年前から多職種 (医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士等) による心不全チームを結成し、慢性心不全の治療にあたっていることは以前にも述べましたが、今回は一般演題として病診連携・チーム医療の実例を紹介するとともに、特別講演として「高齢者心不全治療の話題 −チーム医療を含めて−」という演題名で兵庫県立尼崎医療センター循環器内科部長の佐藤幸人先生にご講演を賜りました。
私は一般講演の座長をさせていただいたのですが、まず1題目では心嚢液貯留による心不全患者さんの一例が提示され、紹介から診断・治療に至る一連の経過を、弥生病院の渡辺先生およびハートセンターの横井先生にそれぞれの立場から紹介していただきました。2題目では慢性心不全看護認定看護師である五十嵐さんから、心不全チームとして関わることによって入院回数を著しく減らすことができた慢性心不全患者さんの一例を提示していただき、さらに外来でのカテコラミン点滴やカルペリチド点滴など、先進的な取り組みも紹介していただきました。病診連携を円滑に行って行くためにはこのような症例検討の場が是非必要だと思われますので、今後も引き続き行っていただきたいと思います。
さて特別講演の佐藤先生ですが、ご存知の様に心不全治療の分野では大変ご高名な先生で、私も日経メディカルの連載や先生の著書を度々拝見していたことから、今回のご講演を大変楽しみにしていました。そのご講演は期待に違わぬ大変素晴らしいもので、チーム医療や病診連携のあり方、さらには昨年10月に出された「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」の紹介や末期心不全患者さんに対する終末期医療に至るまで、幅広い内容をわかりやすく教えていただきました。特に心不全患者さんの終末期医療に関しては、心不全という疾患 (症候群といった方が適切かもしれません) の予後が決してよくないこと (一度心不全を起こした患者さんの5年生存率は50%程度しかなく、これは乳がんや大腸がんの患者さんの5年生存率とほぼ同じ数字です) を、もっと世間一般の方々に周知し理解を深めてもらうことが重要であると痛感しました。
超高齢化社会を迎えて今後益々増加するといわれている心不全患者さんの治療を地域の中でどのように連携して行っていけばよいのか、今後も1−2回/年の割合で会を行い考えていきたいと思います。

2017東三学術講演会1

今年最初の東三学術講演会は、1/20 (水) に「中高年の肩痛・肩こりの診かた・治し方」という演題名で、愛知医科大学医学部 整形外科 教授の岩堀裕介先生にご講演を賜りました。今回のように東三学術講演会は、内科に限らず幅広い分野の先生方から話を聴くことができるので、全く新しい知識を得られる大変貴重な機会だと思います。
まず岩堀先生は、内科医にも理解しやすいように肩関節の構造についてわかりやすく解説していただきました。その後肩痛を呈する代表的な疾患について、その病態や診断、治療について詳しく教えていただきました。私個人としては、いわゆる「五十肩」について、最近は「凍結肩」という用語を用いるということを恥ずかしながら初めて知りました。また凍結肩では血管造影を行うとburning signと呼ばれる異常血管が認められること、この正体はA-V shuntであり病変部位の低酸素に関係していること、異常血管の周囲には疼痛受容体が多く分布し痛みに関与している可能性があること、この異常血管が関節包の肥厚や拘縮に関与している可能性があること、さらにこの血管をカテーテルで塞栓する治療法が試みられていることなど、最新の知見も教えていただき大変興味深く拝聴しました。さらに、凍結肩以外にも石灰沈着性腱包炎や腱板断裂などについても解説していただいたのですが、岩堀先生の診療に対する真摯な姿勢がダイレクトに伝わってくる講演でした。先生は適切なリハビリを非常に重要視されており、肩疾患に精通した理学療法士と協力して保存療法を行います。さらには薬物療法や注射などを組み合わせて治療を行い、症状が改善しない場合や何らかの理由で早急に治療する必要がある場合は手術を選択しますが、やみくもに手術を行うことはしないとのことです。もちろん先生は手術の腕も超一流なのですが、一人一人の患者さんの状態や希望に応じて治療を行う姿勢に大変感銘を受けました。ただあまりにも肩痛の講演に時間がかかってしまったため時間切れとなり、肩こりの話が聴けなかったのが唯一残念でした。
実は岩堀先生は私の大学時代の部活の3年先輩であり、懇親会では大学時代の思い出話も含めて大変楽しい時間を過ごすことができました。今回聴けなかった肩こりの話も別の機会に必ずお話ししいただけるとのことですので、楽しみに待ちたいと思います。岩堀先生、本当にありがとうございました。

東三学術講演会

11/30 (水)には東三学術講演会が行われました。今回の講演会は「糖尿病勉強会」の第7回にあたるもので、テーマは「動脈硬化を見つけるために」でした。ご存知のように糖尿病患者さんは大血管障害(脳卒中や心筋梗塞など)の発症率が高く、糖尿病でない人に比べて2〜4倍発症しやすいと言われています。すなわち糖尿病患者さんでは、どうすれば動脈硬化の進行度を適切に評価できるかが重要なテーマとなってきます。今回は僭越ながら私も「かかりつけ医でできる動脈硬化評価法」という演題名で発表させていただきました。
講演では、まず「動脈硬化とは」という話から始めさせていただきました。我々は普段から動脈硬化という言葉をよく使いますが、いざその定義は?と聞かれると、答えに窮する人が案外多いのではないでしょうか。ここでは中山書店の「内科学書 改訂第8版」に記載されている「血管壁の肥厚、硬化、改築および機能低下を示した動脈硬化病変の総称」という定義を使用しましたが、動脈硬化を評価する方法は、この中の「硬化、機能低下」を診る検査(血管機能検査)と「肥厚、改築」を診る検査(形態学的検査)の、大きく2つに分けられるのではないかと思います。今回は時間の制約もありましたので、血管機能検査ではFMD、RH-PAT (以上血管内非機能検査)、baPWV、CAVI (以上動脈スティフネス検査)、ABIの5つを紹介させていただきました。また形態学的検査では「かかりつけ医でできる」というテーマに基づき、頸動脈エコー検査のみ紹介させていただきました。さらに各検査のメリットとデメリットを、①エビデンスの存在、②簡便性、③再現性、④コスト、という4つの観点から私なりに評価し、私見を述べさせていただきました。講演内容につきましては不十分な点も多々あったかと思いますが、参加された先生方の日常診療に少しでも役立てば幸いです。

10月の研修内容

10月は何かと気ぜわしく、ゆっくりと「Doctor’s Topics」を書く余裕もないまま過ぎてしまいました。それでも10月全体では10回ほど研究会に参加してきました。その中で強く印象に残っているのは、10/5 (水) の東三学術講演会で豊橋ハートセンター循環器内科医長の羽原真人先生がご講演された「コレステロール代謝と冠動脈硬化病変との関連性〜最適なコレステロール低下療法への考察〜」や、10/13 (木) の豊橋内科医会研修会で聖霊浜松病院副院長の山本貴道先生がご講演された「てんかんの理解と診療の基本〜脳神経系専門医との連携を推進するために〜」、さらには10/25 (火) の疼痛診療セミナーin豊橋で浜松医科大学整形外科学教授の松山幸弘先生がご講演された「痛みの発生メカニズムに基づいた最新の診断・治療」などです。
我々かかりつけ医は、自身の専門分野については最新の知識を維持したいと思う一方で、専門分野以外の知識も幅広く取り入れたいと考えています。そういった意味で10月は、私の専門分野である循環器内科に関する講演から始まって、神経内科や整形外科といった非専門分野まで幅広くお話を伺う機械を得ることが出来て、忙しいながらも充実した一ヶ月だったと思います。実は11月も多くの研究会が予定されていますので、時間が許す限り参加して知識を吸収し患者さんの診療へ還元したいと思います。

穂の国Total Care Seminar

9/15 (木) は「穂の国Total Care Seminar」が豊橋ハートセンターで開催され、特別講演として「リポ蛋白レベルでは語れない脂質の代謝」という演題名で、大阪市立大学大学院医学研究科 血管病態制御学 准教授の庄司哲雄先生にご講演を賜りました。
脂質代謝の分野は、PCSK9阻害薬という新しいコレステロール治療薬が出て来たこともあり、再び注目を集めています。リポ蛋白は簡潔に言うとコレステロールや中性脂肪を運ぶ粒子で、大きさ (比重) によってVLDL (超低比重リポ蛋白)、LDL (低比重リポ蛋白)、HDL (高比重リポ蛋白) などに分けられます。まず先生は、復習を兼ねてリポ蛋白代謝について非常にわかりやすく解説していただきました。私はいろいろな研究会でリポ蛋白代謝の話を聞いてきましたが、庄司先生の説明が最も理解しやすく、かつコンパクトにまとまっていると感じました。また、わかりにくい高脂血症のタイプ分類 (I型〜V型) についても、頻度の低いI型、III型、V型を除いて簡易的に分類する方法を教えていただき、まさに目から鱗が落ちる思いでした。
次に先生はそれぞれの高脂血症に対する治療法について解説され、さらに治療を行う上でのガイドラインについても言及されました。一般的にガイドラインは、管理目標値を設定しそれを達成すべく治療を行うもの (Treat to Target方式) が一般的ですが、最近のガイドラインの中には、目標値を設定せずに治療を行うもの (Fire and Forget方式) があり、2013年に出されたアメリカの脂質治療ガイドライン (ACC/AHA Guideline) などがこれに当たります。どちらがよいかは議論があり一概に言えないと思いますが、今後は医療経済学的な側面も含めて考える必要があるのかもしれません。
最後に先生は、本題であるリポ蛋白レベルではない脂質代謝 = 脂肪酸代謝について、脂肪酸の分類や脂肪酸と心血管イベント (心筋梗塞や脳卒中など) との関連も含めて解説されました。EPA (エイコサペンタエン酸) やDHA (ドコサヘキサエン酸) はω-3系多価不飽和脂肪酸に分類され、大規模臨床試験による心血管イベント抑制のエビデンスが存在します。しかしスタチンなどに比べるとエビデンスが少ないこと、必ずしも有効性が示されない臨床試験が存在することも事実で、今後さらなるエビデンスの蓄積が必要だと感じました。
今回は庄司先生のおかげで、脂質代謝に関する自分の中の知識を整理するとともに新たな知識を得ることが出来ました。庄司先生、お忙しい中ご講演ありがとうございました。

平成28年度卒後研修会

8/27 (土) には平成28年度豊橋市医師会卒後研修会が開催されました。昨年もご紹介しましたが、本研修会は必ずしも医療に直接関係する内容である必要はなく、演者も医療関係者に限らず幅広い分野の方々からお話を伺おうとするものです。本年度は「自閉症と化学物質 ―誘発物質探査の現状と自閉症からの回復の試み―」という演題名で、豊橋技術科学大学 環境・生命工学系講師の吉田祥子先生にご講演を賜りました。今回は自閉症関連のテーマでしたので、比較的医療との関連が深い内容だったものの、やはり通常の研究会とは切り口の異なった、新鮮な驚きが詰まったお話となりました。
普段我々が自閉症関連で講演を聴講する場合には、自閉症の診断やその後の支援のあり方について焦点を当てたものが多い印象があります。もちろんそれらは医療者にとって大変重要なテーマなのですが、今回吉田先生は科学者としての視点から、コホート研究の結果を元に自閉症を引き起こす可能性がある環境因子を紹介されました。次に先生は、それらの因子について実際に動物実験で検証を行い、病理学的に脳(特に小脳)にどのような変化が起きているのかを解説されました。自閉症を「脳」の問題として捉え、科学的に探求している姿勢には大変感銘を受けました。
また後半では、「自閉症は治るのか」という非常にインパクトの強いテーマについて、いくつかの文献的考察を交えながらご紹介いただきました。今回のご講演の中で名前の出た薬剤については、いずれも国内では適応外のため具体的な名前を出すことを控えさせていただきますが、先天的な障害として(治らない疾患として)自閉症を捉えて来た我々にとっては、十分に刺激的な内容でした。
吉田先生は最後に、自閉症はもはや病ではなく人類の一つの類型であり、自閉症を緩和する「技術」あるいは自閉症を容認する「社会」を開発する必要があるのではないか、という問題を提起して講演を終了されました。先生には是非今後も研究を発展させていただき、自閉症の人たちや現代社会に対して光明をもたらしていただければと思います。吉田先生、本当にありがとうございました。

インフルエンザワクチン予防接種講習会

今回はいつもと若干趣を変えて、インフルエンザワクチン予防接種講習会についてご紹介したいと思います。豊橋市医師会では毎年この時期に、10月から始まる高齢者インフルエンザワクチン予防接種に関する講習会を開催しています。予防接種を行う医療機関は、原則として全て出席することが義務づけられており、出席しない場合は公費を利用した予防接種を行うことが出来ないという厳しいルールがあります。しかし、そのおかげで皆がインフルエンザに関する最新の情報や知識を共有でき、安全かつ正しい予防接種を行える訳ですから、非常に重要な講習会とも言えるのではないでしょうか。
毎年この講習会には、ワクチン研究に関する大変ご高名な先生が来られるのですが、今年 (7/30) も「インフルエンザの疫学研究 〜ワクチンの有効性評価や異常行動の関連因子を例に〜」という演題名で、大阪市立大学大学院 医学研究科 公衆衛生学教授の福島若菜先生にご講演を賜りました。
疫学というと、我々かかりつけ医にとってはやや馴染みの薄い学問ですが、福島先生は「疫学とは」から始まり、「疫学と統計学との違い」や「ワクチンの効果をどのように評価するか」、さらには「インフルエンザワクチンの有効性評価方法」について大変熱心にご講演され、特に「test-negative design」という評価方法についてご自身のデータを交えて解説していただきました。それにしても、一つのワクチンの有効性を調査・評価することがどれだけ大変であるかということを改めて知りました。
先生は最後に、自ら厚生労働省の研究班のメンバーとして行った、タミフル内服による異常行動・異常言動に関する調査班の研究結果にも触れられて講演を終了されましたが、私自身、大規模臨床研究を理解する上で疫学的手法を理解することが大変重要だと実感していることもあり、今回のご講演内容を大変興味深く拝聴しました。福島先生、本当にありがとうございました。
なお本年度(平成28年度)の豊橋市高齢者インフルエンザワクチン予防接種は、10/11 (火) から始まる予定です。

豊橋内科医会

7/14 (木) の豊橋内科医会研修会は、「これからの糖尿病治療」という演題名で、洪内科クリニック院長の洪尚樹先生にご講演を賜りました。洪先生は糖尿病領域では大変ご高名な先生で、豊橋にも過去に数回お越し頂いていますが、今回は特に動脈硬化を克服するための糖尿病治療に焦点を当てて、ご講演いただきました。
洪先生は、まずこれまでの糖尿病治療の目的が細小血管障害である網膜症・腎症・神経障害を予防することであり、これについてはほぼ達成可能なところまで来ていることを概説されました。その上で、これからの糖尿病治療戦略として如何に動脈硬化を予防するかが重要であると強調され、そのための治療薬に求められる条件として、①単独で低血糖を起こさないこと、②食後高血糖を改善すること、③高インスリン血症を改善すること、④脂質代謝異常を改善すること、⑤肥満を解消すること、が重要であると解説していただきました。
また、これらを踏まえた上でEMPA-REG OUTCOME試験の結果に触れられ、SGLT2阻害薬の持つ可能性について言及されました。EMPA-REG OUTCOME試験については、6月のアメリカ糖尿学会でサブ解析の結果が発表され、腎機能を改善する可能性も指摘されていることから、今後ますますSGLT2阻害薬の重要性が増すだろうと思われます。また、同時期に発表されたLEADER試験にも触れられ、GLP-1受容体作動薬であるリラグルチドが心血管イベントを抑制する可能性について解説していただきました。ただしLEADER試験で使用されたリラグルチドは約1.8mg/日であり、日本での承認用量 (0.9mg/日) とは異なっている点に注意する必要がありそうです。
最後に、洪先生は動脈硬化を予防するための糖尿病治療薬としてチアゾリジン薬、SGLT2阻害薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、ビグアナイド薬を挙げられ、これらを上手に組み合わせることで、動脈硬化の発症・進展を克服できるのではないかと解説していただきました。洪先生のご講演は、いつも切れ味が鋭く核心を突いた内容で感銘を受けるのですが、今回も最新の大規模臨床試験の結果を踏まえつつ、大変わかりやすい内容となっていました。洪先生、本当にありがとうございました

豊橋内科医会

6/9 (木) の豊橋内科医会は、「エビデンスから見る糖尿病と心不全 〜TIMI Study Groupの経験から〜」という演題名で、相模原協同病院 循環器内科の加藤恵理先生にご講演を賜りました。TIMI研究グループは、心血管疾患に関連した大規模臨床試験を行う世界的に有名なグループで、ハーバード大学のブリガムアンドウィメンズホスピタル内にあります。加藤先生は、日本人で初めて (というよりアジア人で初めて) TIMI研究グループの上席研究員になられた方で、ご講演では先生の臨床試験に対する豊富な知識と、糖尿病治療に対する循環器内科医からの視点が組み合わされたことで、いつもの糖尿病関連の講演会とはやや趣を異にした素晴らしい内容となりました。
先生のご講演の中で特に印象に残ったのは、糖尿病治療の最終目標は細小血管障害や大血管障害を防ぐ事であり、血糖値やHbA1cはあくまで代替エンドポイントに過ぎない、という言葉でした。ごく当たり前のことではありますが、日常臨床の中でつい血糖値やHbA1cのコントロールばかりに目がいきがちな自分がいることに改めて気づかされました。今回のご講演の主なテーマである糖尿病と心不全については、糖尿病患者さんでは心不全の発症リスクだけでなく再発リスクも高いこと、さらに糖尿病が心不全発症の独立した危険因子であることを教えていただきました。
加藤先生はTIMI研究グループの中で、特にSAVOR-TIMI 53試験とDECLARE-TIMI 58試験に携わっているそうで、この2つの大規模臨床試験について解説されるとともに、DPP-IV阻害薬やSGLT2阻害薬に関連した他の大規模臨床試験の結果についても言及されました。SAVOR-TIMI 53試験 (DPP-IV阻害薬を用いた大規模臨床試験) では実薬群で心不全の発症率が有意に高かったのですが、この原因は未だに不明であること、EMPA-REG OUTCOME試験 (SGLT2阻害薬を用いた大規模臨床試験) では逆に実薬群で心不全の発症率が有意に抑制されていたのですが、その機序として利尿効果や降圧効果・体重減少効果などが複合した結果ではないかと言われていること、などを教えていただきました。
DECLARE-TIMI 58試験は現在もまだ試験が進行中で、結果が出るまでにあと1-2年かかるようです。症例数が17,000例を越える大規模臨床試験ですので、結果が出たら是非もう一度豊橋にお越し頂き、解説していただきたいと思います。なお懇親会の場では、先生の留学中の苦労話なども聞けて大変有意義な会となりました。加藤先生、本当にありがとうございました。

第6回豊橋ライブOMTコース

5/26 (木) に、第6回豊橋ライブ OMT (Optimal Medical Therapy) コースが開催され、今年も徳島大学循環器内科 佐田政隆教授と一緒にコース世話人を務めさせてさせていただきました。OMTコースは昨年同様豊橋内科医会との共催の形で開催され、かかりつけ医の先生方にも参加していただけるように配慮しました。
実は昨年のOMTコース終了後に、参加していただいたかかりつけ医の先生方を対象に、今後どのようなテーマの講演を聞きたいかのアンケートを行いました。その結果、特に多かったのが ①心不全の治療・管理、②抗不整脈薬の使用方法、③抗血小板薬と抗凝固薬の併用法、④アブレーションの適応・管理であり、今年はその中から①と③を選ばせていただきました。
第一部の心不全の治療・管理では、「心不全のトータルケア」という演題名で、豊橋ハートセンター循環器内科の吉本大祐先生にご講演をお願いしました。人口の高齢化に伴い、心不全患者は2030年には130万人まで増加すると言われており、対応が急がれる疾患の一つです。近年、豊橋ハートセンターでは心不全治療にも力を入れており、昨年からは心不全チームを結成して多職種 (医師、看護師、薬剤師、理学療法士等) での包括ケアを行っているそうです。吉川先生は、特にチームとして心不全を管理することの必要性や、心臓リハビリテーションの重要性、さらには栄養状態と心不全の関連について解説されました。今後は心不全患者さんの病診連携にも力を入れたいとのことですので、我々かかりつけ医側も積極的に患者さんの紹介・受け入れを行っていきたいと思います。
第二部の抗血小板薬と抗凝固薬の併用については、「NOACは冠動脈イベントを抑制するか?」という演題名で、九州大学病院循環器内科講師の的場哲哉先生にご講演いただきました。心房細動を持つ患者さんは、脳卒中予防のため抗凝固薬の内服が必要となる場合が多いのですが、もし虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)を合併すると、さらに抗血小板薬の追加内服が必要となります。的場先生は、過去の大規模臨床試験の結果から、抗凝固薬 (主にワルファリン) 単剤に比べて抗血小板薬1剤の追加で約2倍、抗血小板薬2剤の追加 (DAPT: Dual AntiPlatelet Therapy) で約3倍に出血イベントが増加することを教えていただきました。さらに先生は2014年に出されたヨーロッパ心臓病学会の合同文書にも触れられ、PCI後6ヶ月で抗血小板薬を2剤から1剤に減量し、さらにPCI後1年で抗凝固薬単剤 (ワルファリンあるいはNOAC) とするように推奨していることを解説されました。ヨーロッパに限らず、最近ではDAPTの期間をなるべく短縮し、抗凝固薬単剤でフォローしようとする方向のようです。ただし、すでにワルファリンに関しては冠動脈イベントの抑制効果が証明されていますが、NOACでは動物実験での動脈血栓を抑制するという報告があるものの、大規模臨床試験での結果が十分とは言えない状況です。現在NOACを使用した大規模臨床試験が複数進行中だそうですので、これらで良好な結果が得られれば、今後ワルファリンよりもNOACが推奨されるようになる可能性が高いと思われます。
今年のOMTコースも参加人数が40名を超え、盛況の中でコースを終えることができました。講師の先生方、ご参加いただいた先生方、そしてコースの運営にご協力いただいたスタッフの方々、本当にありがとうございました。

豊橋内科医会研修会

4/28 (木) の豊橋内科医会研修会は、「日常診療に潜む下垂体疾患」という演題名で、名古屋大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌内科教授の有馬寛先生にご講演を賜りました。一口に下垂体疾患といっても、下垂体前葉から分泌されるホルモン (ACTH、TSH、GH、プロラクチンなど) と、下垂体後葉から分泌されるホルモン (ADH、オキシトシン) のそれぞれに異常をきたす疾患があるわけですから、大変複雑です。有馬先生には、それらの中の代表的な疾患について、症例を交えてわかりやすく解説していただきました。
まずGH (成長ホルモン) による異常として、先端巨大症について解説していただいたのですが、心臓の機能が低下して心不全や不整脈を繰り返していた患者さんが、先端巨大症の診断を受け治療を開始したところ、心機能が著明に改善したという症例は、大変興味深く拝聴しました。心筋の肥大化や間質の繊維化があっても、ある程度までなら改善するということでしょう。先端巨大症は、糖尿病や高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群との合併も多いとのことですので、鑑別すべき疾患の一つとして、その特徴的な顔貌とともに頭の中に入れておくべきだと感じました。
さらに先生は、ACTHの異常としてのクッシング病や、ADH (抗利尿ホルモン:バソプレッシン) の異常としての中枢性尿崩症やSIADH (抗利尿ホルモン不適合分泌症候群) についても解説されました。その際に低ナトリウム血症について話があったのですが、余談として、マラソン時にも水分の過剰摂取による低ナトリウム血症が起きることがあると教えていただきました。我々はマラソンというと、脱水による体調不良や熱中症が真っ先に頭に浮かびますが、ある研究によると、マラソンをゴールした後に、スタート前に比べて3〜5kg体重が増加している人が以外に多いそうです。そういった際に、極端な低ナトリウム血症になっている場合があるのですが、命に関わるような危険な状況に陥ることもあるそうです。必要以上の水分摂取は、たとえそれがスポーツ飲料であっても低ナトリウム血症をきたすことがある (スポーツ飲料ではナトリウム含有量が足りないということでしょう) ことを覚えておく必要があり、我々も市民ランナーに対して注意喚起をしていく必要がありそうです。
有馬先生は大学の1年先輩で、大学病院でも数年間ご一緒させていただきました。講演の後にはご挨拶や質問もできて、大変有意義な講演会でした。有馬先生、ありがとうございました。

第80会日本循環器学会

3/20 (日) は日本循環器学会学術集会に出席してきました。今年は「日本の循環器病学の過去・現在・未来 ―東日本大震災復興5周年―」をテーマに仙台で開催されたのですが、仙台市内の宿泊先を確保できず、やむを得ず 3/19 (土) に東京で一泊し、翌朝の新幹線で仙台に向かいました。そのため午前・午後のセッションのそれぞれ一部しか参加することが出来ませんでしたが、それでも心臓リハビリテーションに関するセッションとB型大動脈解離の治療に関するセッション、さらには教育セッションIII「我が国における心臓移植」を聴講することが出来ました。いずれもかかりつけ医が行う日常診療からはややかけ離れた内容でしたが、日頃は聞くことができないような最先端の話題が聞けるのも学会の楽しみのひとつと言えます。もちろん今回得られた知識が、いずれ病診連携(病院と診療所の連携)や患者さんからの相談に活かす事ができればいいなと考えています。
来年の学術集会は金沢で行われる予定です。また宿泊先の確保に苦労しそうですが、何とか参加したいものです。

HONEST Study

2/16 (火) に、Toyohashi Heart A to Z 学術講演会という循環器関連の研究会が開催されました。特別講演では、「心原性脳塞栓症の治療と予防 −NOACの活用−」という演題名で、熊本市立熊本病院 首席診療部長・神経内科部長の橋本洋一郎先生にご講演を頂いたのですが、私もその前座として20分ほど話をさせていただきました。私の講演は「HONEST Studyから得られた知見 〜家庭血圧測定の重要性〜」という演題名で、自治医大の苅尾教授らが中心となって行ったHONESTという大規模試験の紹介でした。HONEST Studyは、オルメサルタンという降圧剤を基礎治療とした高血圧患者さん約20,000例を対象とした大規模前向き観察研究です。Studyの主な解析結果はすでに2014年のHypertension誌に掲載されていますが、昨今SPRINT試験の結果を受けて、どこまで血圧を下げれば良いかという議論が再度活発になっている情勢を考え、皆さんの参考になればと思ってご紹介した次第です。
HONEST Studyの主な目的は、家庭血圧や診察室血圧と心血管系イベント (脳卒中や心筋梗塞など) の関連について検討することです。HONEST Studyは観察研究ですので、SPRINT試験のような降圧目標の設定もありませんし、他のランダム化比較試験 (RCT) のような対照群の設定や降圧剤内服の規定もありません。ですから、我々が普段診察室で行っているありのままの降圧治療が反映されていると考えられます。もちろんエビデンスの質という点ではRCTに劣りますが、20,000例を超える症例を集めた点、治療中の家庭血圧と心血管系イベントとの関連を見た点からも非常に興味深い研究と言えるでしょう。
結果を簡単に紹介しますと、降圧薬治療中の早朝家庭血圧が125mmHg未満の群と比べて、145mmHg以上155mmHg未満の群 (ハザード比1.83) および155mmHg以上の群 (ハザード比5.03) では心血管系イベントの発生率が有意に高値でした。またスプライン回帰分析という手法を用いると、早朝家庭血圧では124mmHgで最も心血管系イベントのリスクが低くなり、144mmHgを超えるとイベントのリスクが有意に高くなることがわかりました。
さらに、診察室血圧のコントロールが良好 (130mmHg未満) であっても、早朝家庭血圧のコントロールが悪い場合 (145mmHg以上) は、イベントの発生率が有意に高く (ハザード比2.47) 、逆に診察室血圧のコントロールが不良 (150mmHg以上) であっても、早朝家庭血圧のコントロールが良い場合 (125mmHg未満) では発生率は高くない (ハザード比0.87) ことがわかりました。
以上から論文では、診察室血圧がコントロール良好であっても、早朝家庭血圧を145mmHg未満にコントロールすることが心血管系イベントのリスクを抑制するために重要であり、実臨床における家庭血圧の重要性を裏付けるものであると述べています。なお論文内の記述はありませんでしたが、苅尾教授に直接お聞きしたところ、早朝家庭血圧が100mmHg程度まで下がってもイベントリスクは増えなかった (Jカーブ現象は認められなかった) とのことです。皆さんの今後の降圧治療の参考になれば幸いです。

東三学術講演会

1/20 (水) の東三学術講演会は、「心不全の予防における降圧の重要性 −SPRINT、EMPA-REG OUTCOMEを踏まえて−」という演題名で、東京都健康長寿医療センター副院長の原田和昌先生にご講演を賜りました。
原田先生は、まず「心不全パンデミック」という言葉を用いて、これから超高齢化社会を迎えるにあたって、特に高齢者の心不全が爆発的に増加する可能性があることを指摘されました。このテーマは、昨年日経メディカルという医学雑誌の特集記事にもなっていましたので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。先生は、高齢者の心不全の場合、単に心臓疾患としてだけではなく多臓器の老化という観点からも捉える必要があり、その中でも腎機能や栄養状態が患者さんの予後を規定する因子として重要であることを強調されました。また、かくれ心不全を早期に発見するためには、スクリーニング検査としてBNPが有用であることも教えていただきました。
そして、心不全を予防するためには降圧が最も重要であることを、ご自身の施設のデータや大規模臨床試験の結果を交えながらわかりやすく解説していただきました。ALLHATやHYVET、ACCORD-BPといった過去の大規模臨床試験から、降圧薬の中でもサイアザイド類似利尿薬 (クロルタリドンやインダパミド) やACE阻害薬の有用性が高いことを説明されるとともに、最近話題となったSPRINTやEMPA-REG OUTCOMEについても言及され、両試験とも使用した薬剤の降圧利尿効果 (SPRINTでは主にクロルタリドンの降圧利尿効果、EMPA-REG OUTCOMEではSGLT2阻害薬エンパグリフロジンが持つ利尿効果) が良好な結果をもたらしたのではないかと考察されました。
前回の「Doctor’s Topics」でも書いたように、SPRINT試験についてはまだ不明な点も残されており、今後のサブ解析結果が待たれるところですが、いずれの試験も薬剤の使用によって心不全の発症が有意に抑制され、その結果心血管死や全死亡も有意に減少している点は大変興味深いところです。利尿剤の使用過多による脱水や低血圧、腎機能の悪化には十分に注意する必要がありますが、サイアザイド類似利尿薬という古典的な薬剤の有用性について、今一度考える必要がありそうです。
 
*クロルタリドンは現在日本では使用されていません。

SPRINT試験

今回は、週刊誌でも報道され話題を呼んでいるSPRINT試験について考えてみたいと思います。
SPRINT試験は米国で行われた大規模臨床試験で、50歳以上の高血圧患者を対象に、収縮期血圧140 mmHg未満を目指した標準降圧群と、120 mmHg未満を目指した厳格降圧群に分け、心筋梗塞や脳卒中、心不全、心血管死などの発症に差があるかどうかを見たものです。その結果は、なんと厳格降圧群において心血管イベントの発生が25%低下し、総死亡も27%低下するという衝撃的なものでした。
この結果を受けて複数の週刊誌に「血圧を120以下に下げろ」などの見出しが躍り、現在の降圧目標値140/90 mmHgがさらに下がる可能性についても言及していました。中には「製薬メーカーの策略ではないか」なんて記事までありました(確かに降圧目標が下がれば降圧薬は売れますね)。私もすでに数名の患者さんから質問を受けており、世間の注目度がかなり高いことを実感しています。
ではSPRINT試験の結果は、すぐにでも臨床の現場で取り入れるべきものなのでしょうか。ここでは私なりに評価すべき点と注意すべき点に分けて整理してみます。
 
評価すべき点​
・9,000例を超える高血圧患者を対象にしていること。一般に症例数が増えれば信頼性も増しますが、試験を正確に実施することがとても大変になります。その意味でこの試験は重要な意義を持つと言えます。
・米国国立心肺血液研究所(NHLBI)を中心とした公的機関が実施したこと。製薬企業の利害が影響していないため、より信頼性が高いと思われます。
・75歳以上の高齢者でも厳格降圧群が優れていたこと。今までの大規模臨床試験では、特に75歳以上において140/90 mmHg未満に下げることの妥当性は示されていませんでした。
・今まで冠動脈疾患患者や高齢者で懸念されていたJカーブ現象(血圧を下げすぎると逆に死亡率が上がる現象)の存在が否定されたこと。これにより血圧を十分に下げることの妥当性が示されたものと考えます。

注意すべき点
・当たり前ですが、日本人を対象とした試験ではないこと。米国と日本では人種差もありますし、疾病構造も異なります(米国では心筋梗塞が多く、日本では脳卒中が多いことなど)。結果をそのまま日本人に当てはめてよいかどうかの検討が必要だと思います。
・すでに冠動脈疾患や腎臓病を合併しており、心血管病のリスクが高い症例が対象であること。すべての高血圧患者さんに当てはまる結果ではないと考えます。
・一方で、対象から糖尿病や脳卒中の既往がある症例は除外されていること。ということは、SPRINT試験の結果を糖尿病や脳卒中を合併している高血圧患者さんにそのまま当てはめることはできません。
・血圧測定が通常の診察室で行われている方法と異なること。詳細は省略しますが、白衣高血圧が可能な限り除外されているため、どちらかというと家庭血圧での血圧値に近いと思われます。
・厳格降圧群では心不全が著明に減少しており、全体の結果に影響を与えていること。SPRINT試験では、米国のガイドラインに従い降圧利尿薬を優先的にしたため心不全が抑制されたと思われますが、日本では必ずしも降圧利尿薬が第一選択薬として使用されていません。
・低血圧や失神、電解質異常、急性腎障害などの有害事象が厳格降圧群で多かったこと。これも降圧利尿薬の使用頻度が高かったことと関連している可能性があります。  

注意すべき点が若干多くなってしまいましたが、結論を言うと、SPRINT試験の結果を受けて慌てて治療目標を下げなくても良さそうです。ちなみに日本高血圧学会やJ CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)からも同様の見解が出ています。これからサブ解析の結果も出てくると思いますし、詳細が判明してから日本の高血圧治療の現場で本当に適用できるどうか判断しても遅くはないと思います。我々が今出来ることは、一人一人の患者さんの特徴を理解し、それぞれに応じた目標値を設定した降圧治療を行うことだと言えるでしょう。
 
*薬剤や医療器具等の安全性、有効性などを確認するために、治療を兼ねて行われる試験(研究)のこと

SMART療法

11/12 (木) の豊橋内科医会は、「気管支喘息治療におけるSMART療法の有用性」という演題名で、東京女子医科大学・内科学第一講座の玉置淳教授にご講演を賜りました。玉置先生は喘息やCOPD治療の第一人者で、非専門医である我々かかりつけ医にもSMART療法が理解できるよう、わかりやすく解説していただきました。
現在の気管支喘息治療は、吸入ステロイド (ICS) もしくはICS/長時間作用型気管支拡張剤 (LABA) の配合剤が標準治療薬として広く使用されています。その結果、気管支喘息のコントロールは以前に比べて著しく改善したのですが、それでも発作時には短時間作用型の気管支拡張剤 (SABA) を別に吸入する必要があります。つまり患者さんは、普段使用する吸入薬 (controller) と発作時に使用する吸入薬 (reliever) の二つを使い分ける必要があるわけです。
しかしSMART療法は、ブデソニド/ホルモテロール配合剤 (ICS/LABA配合剤) を普段の治療だけでなく、発作時にも使用する治療法です。これによって患者さんはSABAを別途持参する必要がなくなります。さらにSMART療法は、発作時にSABAを使用する今までの標準治療に比べて、発作が増悪する回数を減らすことや、患者さんのQOLを改善させることなどが報告されており、非常に有用な治療法であると言えるでしょう。
ただしSMART療法は、患者さん自身で吸入の回数を調整する必要があるため、患者さんの深い理解が必要です。そうでないと吸入回数がいたずらに増えてしまったり、逆に定期の吸入をせずに頓用の吸入だけになってしまったりしかねません。我々医療者の十分な吸入指導と患者さんの深い理解が、SMART療法という新しい喘息治療法の成功の鍵となりそうです。

豊橋内科医会

10/22 (木) の豊橋内科医会研修会は、「糖尿病患者の感染管理」という演題名で、名古屋大学臨床感染統御学分野教授の八木哲也先生からご講演を賜りました。最近、新規糖尿病治療薬の登場や、それら新薬に関する大規模臨床試験の発表が続いたこともあり、糖尿病に関する研究会・講演会が非常に多くなっています。しかし今回の講演は、感染症の予防・管理の観点から糖尿病をみるという他の講演とは一線を画する内容であり、非常に興味深いものでした。
講演では、糖尿病患者さんの免疫能(好中球機能や液性免疫・細胞性免疫機能)がどうなっているのかという基礎的な内容から、実際に糖尿病患者さんが感染症を起こすリスクがどのくらい高いのか、感染症を起こした場合の死亡リスクがどの程度上昇するのかといった統計学的な内容、さらには糖尿病患者さんで注意すべき感染症とその感染管理といった実践的な内容まで、幅広く解説していただきました。中でも、血糖値が18mg/dl上昇すると感染症のリスクが6〜10%上昇することや、外科手術時に血糖値が200mg/dlを超えると術後の感染症リスクが上昇するため、200mg/dl未満を目標にコントロールする必要があること、が特に印象に残りました。幸い糖尿患者さんでも、ワクチンに対する免疫反応は正常に保たれているようなので、インフルエンザや肺炎球菌による肺炎など、ワクチンで予防できる疾患は積極的に予防することの重要性を再認識しました。
八木先生は大学の1学年先輩で学生時代から面識があったこともあり、懇親会の場でも、糖尿病患者さんが感染症を起こした場合の抗菌薬の使用方法についてアドバイスしていただきました。八木先生、貴重なご講演本当にありがとうございました。

東三学術講演会

9/30 (水) には東三学術講演会が行われました。今回の講演会は、過去2回行われた「糖尿病勉強会」の第三回にあたるもので、テーマは「インスリンBOT療法」でした。BOTとは Basal Supported Oral Therapy の略で、今服用している飲み薬を続けながら「持効型」と呼ばれる、効果が長く続くインスリンを1日1回だけ注射する方法です。これまでのインスリン治療は、1日に3〜4回自己注射を行う必要があり、患者さんにとって大きな負担となっていましたが、BOTでは注射の回数が1日1回で済むため患者さんの負担も少なく、インスリン治療を始めやすいという利点があります。またBOTは外来で開始することが可能であるため、患者さんにとっても、また我々かかりつけ医にとっても、インスリン治療に対するハードルが随分下がったと思います。
今回はまず基調講演として、杢野医院の杢野武彦先生から「外来でのインスリン導入 〜開業医でのBOT療法の実際〜」という演題名で講演していただきました。BOTの理論と実践について専門医の立場から、我々かかりつけ医に対してわかりやすく解説していただきました。
基調講演後は、実際にBOTを行った症例に関する報告が2題ありましたが、1題は私が「BOTでは血糖コントロールが困難であった一例」という演題名で発表させていただきました。今回は、BOT療法を行う上での注意点や問題点を会場全体で共有できたらと考え、あえてコントロールに難渋した症例を紹介しました。
もう1題は光生会病院副院長の山口俊介先生より、「高齢CKD症例のインスリンステップダウン」という演題名で、頻回のインスリン注射をBOTに代えて逆にコントロールが改善した症例を報告していただきました。こちらは高齢者、CKD (慢性腎臓病) という2つの問題点を持つ患者さんに対して、BOTが1つの解決策になり得ることを示していただきました。
2題の症例報告後は、期待通り (?) 専門医の先生方から様々なご意見やアドバイスが出されました。BOTの利点と問題点の両者を議論することで理解も一層深まった感があり、全体としてバランスのとれたよい研究会になったのではないかと思っています。

抗血栓療法

9月に入って急に研究会が増えてきました。先週は実に月曜日〜土曜日まで6日連日で研究会・講習会の予定がありました。さすがに全て参加することは出来ず4回の出席に留まりましたが、それでも連日の研究会参加は結構きついです。
その中で、9/8 (火) には「抗血栓療法の現状と課題 〜薬剤起因性消化管傷害を含めて〜」という演題名で、名古屋大学循環器内科講師の石井秀樹先生にご講演を賜りました。
ご講演内容は、まず虚血性心疾患に対する抗血栓薬の必要性から始まり、ステント治療時になぜ抗血小板薬の2剤併用療法 (DAPT) が必要かを、わかりやすく解説していただきました。DAPTの期間を今後どうするか(現行ガイドラインでは最低12ヶ月のDAPT期間が推奨されています)については様々な議論があり、まだ定まっていないのが現状ですが、ご講演内容から全ての患者さんに一律のDAPT期間を求めるのではなく、出血のリスクと血栓予防のベネフィットを考慮して、個別に決めるのがよいのではないかと感じました。
続いて石井先生は、抗血栓薬による消化管出血のリスクについて解説され、特に消化管出血を起こした虚血性心疾患患者さんは予後が悪いことを教えていただきました。これは、消化管出血を起こすと一時的に抗血栓薬を中止せざるを得なくなり、その結果ステント血栓症を含めた虚血性イベントが増えることが最も大きな理由のようです。そのためにも消化管出血は予防する必要があるのですが、石井先生はプロトンポンプ阻害薬 (PPI) の有用性に言及され、標準用量のPPIを併用すれば、かなり消化管出血は減らせるとのことでした。
最後に石井先生は、抗血栓薬に関する最近の話題として新規抗血小板薬および抗血小板薬の代謝酵素であるCYP2C19の遺伝子多型について解説されました。今までの抗血小板薬は、患者さんの持つ遺伝子の型によって効果に差が出る可能性があるのですが、新しい抗血小板薬では遺伝子の型の影響を受けにくく、安定した効果が望めるとのことでした。
最後のディスカッションでは、医療者間の連携について話が及びました。循環器専門医とかかりつけ医の情報共有がしっかりされることで、適切な抗血栓療法が行えますし、循環器内科医と消化器内科医が連携を密に行うことで、消化管出血の再発を防げる可能性も高まると思います。
今回のご講演内容は、自分の抗血栓療法に対する知識の再確認とブラッシュアップに大変役立つ内容でした。石井先生、どうもありがとうございました。

医師会卒後研修会

8/29 (土) に平成27年度豊橋市医師会卒後研修会が開催されました。この研修会は、医療に直接関係のないテーマでも構わないという懐の広い会なのですが、本年度は「災害時における自衛隊の活動と医療との関わり」という演題名で、自衛隊の第10特科連隊長 兼 豊川駐屯地司令の上田俊博 1等陸佐にお越し頂き、ご講演を賜りました。
今まで自衛隊の方の話を直接聞く機会はなかったのですが、東日本大震災をはじめとして、昨年の広島での土砂災害や徳島での豪雪による災害など、様々な被災地で自衛隊の方々が先頭に立って救助・支援活動をされていること、そして現地での作業は想像以上に過酷であることがよく分かりました。ただ自衛隊自身は医療行為を行えないので、医療については医療関係者と連携してトリアージや応急救護、後方病院への転送に当たっているとのことでした。
また上田氏は、災害時こそ様々な機関との連携が非常に重要であるということを強調しておられました。そして、日頃から「顔の見える」関係を作っておくことが必要だとも仰っていました。これは、病院と診療所の間の連携(病診連携)の際にも言えることですが、お互いを知っていれば情報交換もスムーズに行えるし、頼み事もしやすくなる、ということに繋がります。考えてみればごく当たり前のことなのですが、全く分野の異なる人同士で「顔の見える」関係を作っておくことは、容易なことではありません。そういった意味でも、今回自衛隊の方と面識を持つことができたことは、大変有意義だったと思われます。豊橋でも今後大規模な災害が起こる可能性が十分にあります。いざという時に、自衛隊をはじめとして、様々な分野の方々と連携して地域の医療活動にあたる必要があると感じました。

東三学術講演会

一昨日 (7/29) は東三学術講演会が行われました。今回の講演会は、4/1に開催された「東三医学会糖尿病勉強会」の第二回にあたるものです。諸事情により「糖尿病勉強会」という名称は用いないことになりましたが、その趣旨は第一回と全く変わっておらず、各医療機関の糖尿病診療力を高め、糖尿病患者さんが安全で質の高い糖尿病診療を受けられるようにすることを目的としています。
今回は「糖尿病の食事療法と指導」をテーマに、地元の糖尿病専門医の先生方に日頃どのような食事指導を行っているかを講演していただきました。

講演1「当院の栄養指導の実際 ~カーボカウントも含めて~ 」
    
杢野医院 杢野武彦 先生
講演2「診療所における栄養指導の工夫」
かわいクリニック 河合泰典 先生
講演3「糖尿病の食事療法 最近の話題」
豊橋市民病院 山守育雄 先生

まず杢野先生は、食品交換表を利用しつつ、炭水化物を50%、55%、60%にしたときの指導について説明していただきました。さらに先生は、1型糖尿病の患者さんを数多く診療していることもあり、カーボカウントについて基礎カーボカウント・応用カーボカウントに分けて教えていただきました。
次に河合先生は、いくら食事指導を行っても患者さんの意識が変わらなければ効果は期待できないため、如何に患者さんの意識を改革し行動変容をおこすかについて、ユーモアを交えながら講演していただきました。
最後に山守先生は、食事療法は糖尿病治療の要であることを強調されつつ、最近の話題である「糖質制限食」との正しいつきあい方や、SGLT2阻害薬処方時の食事療法について講演していただきました。
同じテーマを専門医3名で講演していただいたため、当初は内容が被るのではないかと思っていましたが、その心配は杞憂であり、まさに三人三様の切り口で非常に興味深く聴講しました。私が個人的に印象に残ったのは、杢野先生も河合先生も食事指導を栄養士に委ねるのではなく、ご自身でされているということでした。栄養士がいないから食事指導が出来ないというのは言い訳にすぎないということを痛感したので、もう一度食品交換表から勉強し直さなければ、と思っています。

MERS対策講演会

7/18 (土) に、MERS(中東呼吸器症候群)対策講演会が豊橋市医師会の主催で行われました。連休前の土曜日の午後にも関わらず、80名近い医療関係者の方が参加され、この疾患に対する関心の高さを伺わせました。
講師は、この分野で世界的にも大変ご高名な東北大学・微生物分野の押谷仁教授でした。講演では「新興感染症の現状と日本国内での課題」という演題名で、MERSだけでなく、昨年国内感染例が認められたデング熱や、西アフリカで多くの死者を出したエボラウイルス病(最近ではエボラ出血熱と呼ばないことが多いようです)についてもお話をいただきました。
講演の中で先生は、マニュアルだけでは対応できないことがあるとされ、「想定外」の事態が起きた際に、どれだけ適切な対応ができるかが重要だと強調されました。そしてそのためには、適切なリスクアセスメントが不可欠であることを、リスクマトリックスという表(流行が起きる可能性を横軸に、起きた場合のインパクトを縦軸に置き、リスクの評価を行うもの)を用いて説明されました。
具体的には、エボラウイルス病の場合、日本に波及する可能性は (1+) (地理的にも可能性は低い) で、日本で起きた場合のインパクトも (1+) (仮に日本で発生しても大規模な流行になる可能性はほとんどない) とそれほどリスクが高くないのに対し、MERSの場合は、日本に波及する可能性は (2+) (日本でも感染の起こる可能性あり) で、日本で起きた場合のインパクトも (2+) (数人〜数十人の規模の流行が起こりうる) と、エボラウイルス病よりもややリスクが高いことを示されました。
最後に先生は、リスクマネジメントの観点から、国・地域レベルで早急に体制を整備する必要があることを強調されました。実際に感染症が起こるのは地域であるため、地域レベルでこそ適切なアセスメントおよび初期対応が行われる必要があります。しかしその一方で、地域には感染症の知識を持った専門家が少ないという現実があります。医療関係者だけでなく、行政と連携してこの問題に早急に取り組んで行く必要があると強く感じました。
グローバル化の進展とともに新興感染症のリスクは増大しており、日本だけが安全ということはあり得ないということを実感した90分でした。

International Meeting

6/21(月) にカリフォルニア大学のクルツ教授が来豊され、「 What is the Optimal Drug for Hypertension Treatment? 」という演題名で特別講演が行われました。クルツ教授は、米国高血圧学会会長を歴任されている大変ご高名な先生で、豊橋では珍しい同時通訳ありでの講演となりました。
先生は講演の中で、「塩分感受性高血圧」に対して、我々が通常信じている説(Guytonの“容量負荷”説)に対して疑問を投げかけ、新しい“脈管機能障害”説を提唱されました。そしてこの観点から、現在の高血圧治療にとって最適の降圧薬は何か、をわかりやすくご解説いただきました。同時通訳のかいもあってか、フロアとの質疑も活発に行われ、大変有意義な講演となりました。
なお下の写真は懇親会の席上で、クルツ教授とご一緒させていただいた際のものです。
box-s-w3sbiodg2bp7otymyfbpmwjy3q-1001 のコピー

豊橋ライブデモンストレーションコース

5/28 (木) 〜 5/30 (土)まで、豊橋ライブデモンストレーションコース(以下、豊橋ライブ)が開催されています。豊橋ライブは、特にカテーテル治療に携わる循環器内科医師の手技の向上を目的とした全国規模の研究会で、例年1,500名を越える医師およびコメディカル・スタッフが参加されています。
昨日 (5/28)は、豊橋内科医会との共催で豊橋ライブOMTコースが開催され、私も徳島大学循環器内科 佐田政隆教授と一緒に世話人を務めさせてさせていただきました。OMTとは「Optimal Medical Therapy」の略で、日本語で言えば「至適薬物療法」にあたります。
PCIをはじめとするカテーテル治療は、患者さんの命を救ったり、生活の質 (QOL) を改善したりする上で非常に重要な治療法であることは言うまでもありません。しかしながら、カテーテル治療を行った患者さんが再度心筋梗塞を起こしたり、治療した部位の再狭窄を起こしたりすることを防ぐためには、その患者さんの持つ危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙など)を如何にコントロールするかがとても大切になってきます。我々かかりつけ医の役割は、まさにこの危険因子管理にあると言えます。そしてそのためには、患者さんの生活指導に加え、様々な薬剤をどれだけ適切に使用できるかが鍵となります。
そこで今年は、OMTコースを豊橋内科医会との共催という形とし、より多くのかかりつけ医の先生方に参加いただけるよう配慮しました。(例年は土曜日の午後に開催していたため、かかりつけ医の先生方の参加が限られていました。)今回の内容は、
・東京医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科の小田原雅人教授より「心血管病予防のための糖尿病治療 〜最新の知見を含めて〜」という演題名で、
・神戸海星病院の北村順先生より「循環器疾患の漢方治療」という演題名で、
・名古屋第二赤十字病院の七里守先生より「病診連携により薬剤溶出型ステントの進歩を最大化する」という演題名で、
・帝京大学 循環器内科の上妻謙教授より「虚血性心疾患に対する抗血栓療法の新展開」という演題名で、
それぞれご講演を頂きました。どの講演も内容が濃く盛りだくさんだったため、やや時間が超過してしまいましたが、大変充実したコースだったと思います。参加人数も40名を超え、盛況の中でコースを終えることができました。講師の先生方、ご参加いただいた先生方、そしてコースの運営にご協力いただいたスタッフの方々、本当にありがとうございました。

TAVI (経カテーテル大動脈弁植え込み術)

昨日 (5/13) は「心不全治療を考える  2015」という研究会があり、座長を務めさせていただきました。「心不全治療」というテーマでしたが、今回は特にTAVI(経カテーテル大動脈弁植え込み術)にフォーカスを当てた内容とさせていただきました。
重症の大動脈弁狭窄症 (AS) に対しては、従来開心術による人工弁置換術 (AVR) が行われており、現在もAVRが標準治療であることに変わりはありません。しかし高齢化を背景に発症するASの場合、様々な合併疾患(心筋梗塞、脳梗塞、慢性閉塞性肺疾患、腎不全、認知症など)を有することが多く、手術不能とされる場合も少なくありませんでした。TAVIは、このようなハイリスク症例や手術不能例に対して、カテーテルを用いて人工弁を植え込むもので、2002年に世界で初めて行われて以降、欧米で急速に広まった治療法です。遅ればせながら日本でも2013年に保険償還され、昨年 (2014年) からは豊橋ハートセンターでも行われています。この治療が行える施設は限られており、現在全国で53施設、うち愛知県では豊橋ハートセンター以外に名古屋ハートセンター、名古屋第一赤十字病院、藤田保健衛生大学病院が施設認定を受けています。
昨日はミニレクチャー2題に引き続き、「TAVI導入から1年のハートセンターの現状」という演題名で、豊橋ハートセンターの山本先生にご講演いただきました。この1年間で54例、名古屋ハートセンターを合わせると60例という症例数とその良好な成績にも驚きましたが、患者さんの持つ様々な問題点に真摯に向き合う山本先生の姿勢に大変感銘を受けました。
また講演後に「Q&A / ディスカッション」として5名の先生方にご登壇いただき、
・高齢化によるASの特徴について
・AVRとTAVIの適応の違いについて(TAVIは何歳まで、あるいはどの程度の全身状態まで施行可能か)
・検査で重症ASが見つかっても症状がごく軽微な場合にどうするか
・TAVI施行後の抗凝固療法・抗血小板療法をどのように行うか
・TAVI施行後、病診連携を通じてかかりつけ医でfollow upすることは可能か
などの観点から、活発な議論が繰り広げられました。
この研究会を通じてTAVIという新しい治療に対して少しでも理解が深まり、恩恵を受けられる患者さんが増えれば幸いです。

日本循環器学会

4/25 (土)、26 (日) と日本循環器学会学術集会(以下、循環器学会)に出席してきました。循環器学会は循環器診療を行う医療関係者にとって最も権威のある学会で、内容も基礎から臨床まで非常に幅広く、かつ数多くの講演・シンポジウム・教育セッション・研究発表が企画されていました。参加できた時間は限られていましたが、その中で「Late Breaking Clinical Trial 2 (日本や韓国で行われた最新の臨床研究) 」、「New Oral Anti-diabetic Agents and Cardiovascular Protection (新しい経口糖尿病治療薬と心血管保護) 」、「LMTとCTOに対するPCI (左冠動脈主幹部病変と慢性閉塞病変に対するカテーテル治療) 」、「教育セッションIII  (心不全への対応とその標準治療) 」を聴講しました。
私個人としては、新しい糖尿病治療薬 (DPP-IV阻害薬やSGLT2阻害薬) が心血管に及ぼす効果についてのシンポジウムが特に興味深く、今後実臨床に役立てられる可能性を感じました。糖尿病は心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患を起こしやすいのですが、単に血糖値を下げるだけでなく、心臓や血管に対する効果を考えて治療薬を選ぶことができれば、将来心血管イベントを減らせる可能性は十分にあると思います。ただし、新しい治療薬にはまだエビデンス(証拠)が不足しているのも事実です。期待通りの結果が本当に得られるのか、できるだけ早くエビデンスが蓄積され、我々の元にフィードバックされることを期待しています。
また「Late Breaking Clinical Trial 2」の中で、豊橋ハートセンターの那須先生が冠動脈ステントに関する臨床研究の結果を発表されており、かかりつけ医としては頼もしい限りでした。これからも患者さんの治療に役立つ成果を挙げていただければと思います。

日本医学会総会

4 / 11 (土)、12 (日) と日本内科学会総会および日本医学会総会に出席してきました。特に医学会総会は、全ての学会の総元締のような存在で、4年に1回行われることになっています。第29回となる今年は、まだ桜がわずかに残る京都で開催されました。といっても観光をする余裕は全くなく、ずっと会場に缶詰状態で、特に産業医の研修を集中して受講して来ました。
産業医といっても聞き慣れない方がいらっしゃるかもしれませんが、企業などで労働者の健康管理等を行う医師のことを指します。私は大学病院に勤務していた頃に産業医の資格を取り、その後某企業の産業医を兼務していた経験があるのですが、この資格を更新するためには定期的に研修を受けなければならないのです。
今回の研修の中で特に興味を惹かれたのは、メンタルヘルスに関するシンポジウムでした。最近は企業で働く人々の中で、メンタルヘルスの不調を訴える人(うつや不眠など)が増加していることが社会問題となっています。私の診療所でも、様々な不調を訴えて来院される患者さんの中には、仕事上のストレスが原因と思われる場合がしばしば見受けられます。もちろん深刻な病状であればすぐに専門医(心療内科医や精神科医)へご紹介するのですが、比較的軽症な方であれば、内服薬の処方とともに、不調になった原因を見つけてどう対処するかを考えることになります(そもそもストレスが原因だとご本人が自覚していない場合もあります)。
今回の研修はあくまでも産業医側からの視点に基づくものでしたが、メンタルヘルス不調者の早期発見やその対処という点で、かかりつけ医としても役立つ内容が多かったと思います。最終的にはかかりつけ医と産業医との連携が必要で、職場の中で患者さんの肉体的・精神的負担をどうやって軽減するかが重要だと感じました。

東三医学会糖尿病勉強会

昨日は「第1回 東三医学会糖尿病勉強会」という研究会がありました。この研究会は、東三河地区の糖尿病患者さんが、どの医療機関を受診しても質の高い糖尿病診療が受けられるように、各医療機関の糖尿病診療力を高めることを目的として発足しました。私も世話人の一人として、その立ち上げに関わらせていただきました。
愛知県の中でみると、豊橋市は、健診で糖尿病(または糖尿病の予備群)を指摘される人の割合が高いことがわかっています。理由は幾つか考えられますが、近所へ出かける時も自家用車を使うため運動不足の人が多いことや、果物の産地であるため果物を摂りすぎている人が多いことなどが指摘されています。すなわち、豊橋を含めた東三河地区では、かかりつけ医が糖尿病をしっかりと診療できる体制を整えることが非常に重要となっているのです。
さて、第1回のテーマは「低血糖」でした。糖尿病は血糖値が高くなる病気ですが、治療によって血糖が下がりすぎるとかえって危険な場合があります。低血糖と聞くと、インスリン治療を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実際には飲み薬の糖尿病治療薬(経口糖尿病薬)が原因となっていることも多いそうです。
研究会では、実際の低血糖の実例(もちろん個人情報は保護されていますのでご安心を)や、低血糖を起こさないための経口糖尿病薬の使い方、さらには低血糖時の対処法に至るまで、豊橋医療センター・豊川市民病院・豊橋市民病院の各部長の先生方に教えていただきました。例えば、実際に低血糖が起きた際にはブドウ糖で10g、砂糖だと20gが必要であること、清涼飲料水の中ではコカ・コーラ(ダイエットではなくオリジナルのコカ・コーラ)がおすすめであること、チョコレートは油分が多く吸収が遅いためおすすめできないことなど、患者さんやその家族がその場でできる対処法を教えていただいたので、早速患者さんへの指導に使えそうです。
この「東三医学会糖尿病勉強会」は3〜4回/年で行われる予定です。今後も糖尿病診療を行う上で重要なテーマを取り上げていくつもりですので、乞うご期待を。

抗凝固薬病診連携パス

私たちは、豊橋ハートセンターの不整脈グループの先生方と「抗凝固薬病診連携パス」を運用しています。
先日も、この連携パスの変更点や今後の運用方法について打ち合わせを行ってきました。
2015-03-19 17.44.12
この連携パスは、心房細動という不整脈のために抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)を服用している患者さんを、かかりつけ医とハートセンターが協力して診療していくためのものです。
このパスを使用すれば、普段は近所のかかりつけ医で診てもらうことができるので、わざわざハートセンターまで通う必要がなくなります。もちろん何か問題が生じた場合は、パスを通じてすぐにハートセンターを受診し治療を受けることが出来るので、患者さんは安心して治療を続けられるという仕組みです。
今後も患者さんが安心して診療を受けられるように、様々な仕組みを考えていきたいと思っています。
Page Top