「生活習慣の改善」と「降圧薬に
よる治療」の二段階の治療
高血圧の治療は、生活習慣の改善(第一段階)と降圧薬による治療(第二段階)の二つに大きく分けられます。通常は生活習慣の改善から始めますが、血圧以外の危険因子が多く、リスクが高いと判断される場合は直ちに降圧薬治療を開始します。
生活習慣の改善
先ほど述べたように、高血圧は塩分の過剰摂取が大きな原因となります。
令和6年の調査では、国民一人あたりの食塩摂取量は平均9.6〜9.8g(男性10.5〜10.7g、女性8.9〜9.1g)でした。ここ10年ほどは男女とも約9〜10g/日程度で推移しており、ガイドラインでは6g/日未満を目標としています。
それ以外にも野菜や果物を積極的に摂ること、適性体重(BMI25未満)の維持、毎日30分以上の運動を行うこと、節酒や禁煙、適切な睡眠やストレスの管理などが推奨されています。
薬物療法
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血圧は、心臓が送り出す血液の量(心拍出量)と、それを流す血管の硬さ(末梢血管の抵抗)とで決まるので、降圧薬は、心拍出量を減らす薬、血管を広げる(拡張させる)薬、の大きく二つに分けることができます。前者の代表としてはサイアザイド系利尿薬やβ遮断薬が、後者の代表としてはカルシウム拮抗薬、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)などが挙げられます。ARBとACE阻害薬はRA(レニン・アンジオテンシン)系阻害薬としてまとめられるため、この4種類を、ガイドラインの中で第一選択薬(薬による治療の開始にあたり、最初に使用する薬)として推奨しています。これ以外にもARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、MR(ミネラルコチコイド)拮抗薬、α遮断薬などさまざまな種類があり、その人の高血圧の特徴や持病を考えながら選んでいきます。
主要降圧薬の積極的適応(積極的に使用するべき病態)と禁忌(原則として使ってはいけない病態)を、下記の表にまとめていますので参照にして下さい。
| 積極的適応 | 禁忌 | 重要な注意の下で 使用可能な病態 |
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|---|---|---|---|
| 長時間作用型ジヒドロ ピリジン系Ca拮抗薬 |
脳血管障害 左室肥大 狭心症 |
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| ARB/ACE阻害薬 | 脳血管障害 左室肥大 心筋梗塞後 左室駆出率の低下した 心不全*1 蛋白尿/微量アルブミン尿を有するCKD |
ARB/ACE阻害薬:妊娠 ACE阻害薬:血管浮腫、特殊な膜を用いるアフェレーシス/透析 |
腎動脈狭窄症*5 高カリウム血症 |
| サイアザイド系利尿薬 | 脳血管障害 体液貯留 |
ナトリウム・カリウムが明らかに減少している病態 | 痛風 耐糖能異常 妊娠 |
| β遮断薬 | 狭心症*2 心筋梗塞後 左室駆出率の低下した 心不全*1 大動脈解離 胸部大動脈瘤*3 |
喘息(β1非選択性およびα・β遮断薬) 高度徐脈 未治療褐色細胞腫/パラガングリオーマ*4 |
喘息(β1選択性) 慢性閉塞性肺疾患(β1選択性) 耐糖能異常 |
*1 少量から開始し、注意深く漸増する *2 冠攣縮には注意する
*3 特にMarfan症候群においてエビデンスがあるが、他の胸部大動脈瘤への投与も妥当とされる
*4 α遮断薬との併用やα・β遮断薬の投与が必要 *5 両側性腎動脈狭窄の場合は原則禁忌
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降圧目標は人によって違うので、それぞれに合った目標値を立てて薬を開始することになります。もちろん1剤で済む場合もありますが、残念ながら1剤では、約3割の人しか降圧目標に達することができません。そのため、多くの場合は2剤、あるいは3剤と併用する必要があります。最初は1剤から開始して、徐々に増やしていくことが多いのですが、160/100mmHg以上の高血圧や、すでに心血管疾患の既往がある場合などでは、最初から2剤を併用することもあります。なお、最近では2種類の降圧薬を1剤にまとめた薬(合剤)もありますので、薬の数を減らしたい、飲み忘れを防ぎたい、といった場合にはかかりつけ医に相談してみるとよいでしょう。
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高血圧治療の目的は、血圧を下げることそのものではなく、血圧を下げることで心臓肥大や動脈硬化を防ぎ、最終的には心筋梗塞や脳卒中を予防することにあります。そのためにはよい血圧を維持することが非常に大切です。
高血圧の薬(降圧薬)は血圧を下げてくれますが、効果が切れると血圧は元に戻ってしまいます。ですから、よい血圧を維持する(=心筋梗塞や脳卒中を予防する)ためには降圧薬を飲み続ける必要があるのです。
ただし、減塩や減量・禁煙などによって降圧薬が中止できる場合もありますし、中止できなくても薬の数を減らせる場合もあります。特に夏期は冬期に比べて血圧が下がりやすいので、降圧薬を減らせる可能性が高くなります。家庭血圧を測定して低い値が続く場合(収縮期血圧が100未満など)はかかりつけ医に相談してみて下さい。