2025年版 心不全診療ガイドラインの改訂点について|松井医院|豊橋市の内科・循環器内科

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2025年版 心不全診療ガイドラインの改訂点について

「2025年改訂版心不全診療ガイドライン」が3月に発表され、全面改訂としては約7年ぶりとなる大幅な見直しが行われました。2021年のフォーカスアップデート版以降に発表された海外のガイドラインや最新の知見を盛り込んで作成されていますので、主な改訂点を見ていきたいと思います。

  1. ガイドライン名称の変更

これまでの「急性・慢性心不全診療ガイドライン」から「心不全診療ガイドライン」へと名称が統一されました。これは、急性期と慢性期を明確に分けるのが難しいことや、切れ目のない治療の重要性を強調するためです。

  1. 心不全の定義・分類の見直し

「世界共通の定義・分類(Universal Definition and Classification )」に基づき心不全の定義・分類が改訂されました。また心不全の予防や早期治療の重要性を考慮して、ステージA(心不全のリスクあり)・ステージB(前心不全状態)の記載が充実し、新たに慢性腎臓病(CKD)や肥満がステージA に加えられました。
心不全の診断では、症状や身体所見に加え、BNPやNT-proBNPなどのバイマーカーや、胸部X線や心エコー検査といった画像診断による客観的な証拠が診断プロセスに重要です。ここでは2023年に日本心不全学会が発表した「心不全診療に関するステートメント2023年改訂」に合わせて、BNP 35pg/mL以上、またはNT-proBNP125pg/mL以上で心不全の可能性があるとしています。

  1. 心不全のタイプ別薬物治療の大幅なアップデート

心不全は、心エコー検査で算出される左室駆出率(LVEF)によって、
・LVEF の低下した心不全(HFrEF): LVEFが40%以下
・LVEF の軽度低下した心不全(HFmrEF): LVEFが41〜49%
・LVEF の保たれた心不全(HFpEF):  LVEFが50%以上
と分類されますが、この分類は心不全の薬物治療の際に大変重要な役割を担っています。2021年フォーカスアップデート版では、HFpEFおよびHFmrEFに対しての治療について「うっ血に対し利尿薬」の推奨のみにとどまっており、LVEFが保たれた心不全への明確な治療方針は示されていませんでした。それだけに今回の改訂では、これらの心不全に対する薬物治療がどのように記載されるかに注目が集まっていました。
 ・SGLT2阻害薬
LVEFにかかわらず、全ての心不全においてクラスI(強い推奨)で推奨されました。数々の大規模臨床試験の結果から、HFpEFへの有用性も認められたことになります。
 ・ARNI(アンジオテンシン・ネプリライシン阻害薬)
HFrEFにはクラスI、HFmrEFにクラスIIa(弱い推奨)、HFpEFにクラスIIb(使用を考慮)の推奨となりました。大規模臨床試験でHFpEFへの明確な有効性は認められなかったものの、複数の試験の統合解析で「ARNIはLVEF 57%の患者までは有効である」と報告されているためと思われます。
 ・MRA
薬剤によって推奨が異なり、HFmrEFとHFpEFともにフィネレノンはクラスIIa、スピロノラクトンとエプレレノンはクラスIIbとなりました。これまでの大規模臨床試験で、HFpEFに対するスピロノラクトンの有用性は認められていません(LVEFが55%くらいまでは有効の可能性ありと報告されています)でしたが、最近の大規模臨床試験で第3世代MRAのフィネレノンの有用性が示されたことが根拠となります。ただ、国内においてフィネレノンは心不全に保険適用外であることに注意が必要です。
なお、HFrEFに対しては、ACE阻害薬/ARB、ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬は全てクラスIの推奨となっています。「Fantastic Four」とも呼ばれるこれらの薬剤を「できるだけ早く導入し、忍容性がある限り目標量まで増量すること」が、HFrEF患者に対する治療の最も重要な点とされています。

  1. その他の改訂点

遠隔モニタリングやデジタルヘルスの正式導入、包括的心臓リハビリテーションの強化、併存症に関する記載と推奨、多職種連携・地域包括ケアの推進など、医療現場の変化や社会の高齢化に対応した内容も盛り込まれています。

以上が2025年改訂版の主な具体的な改訂点です。最新のエビデンスと日本の実情を反映し、より実践的で患者さん中心の診療が目指されています。これからも新しい知見が出てきますので、定期的にアップデートするよう心がけたいと思います。