1/20 (水) の東三学術講演会は、「心不全の予防における降圧の重要性 −SPRINT、EMPA-REG OUTCOMEを踏まえて−」という演題名で、東京都健康長寿医療センター副院長の原田和昌先生にご講演を賜りました。
原田先生は、まず「心不全パンデミック」という言葉を用いて、これから超高齢化社会を迎えるにあたって、特に高齢者の心不全が爆発的に増加する可能性があることを指摘されました。このテーマは、昨年日経メディカルという医学雑誌の特集記事にもなっていましたので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。先生は、高齢者の心不全の場合、単に心臓疾患としてだけではなく多臓器の老化という観点からも捉える必要があり、その中でも腎機能や栄養状態が患者さんの予後を規定する因子として重要であることを強調されました。また、かくれ心不全を早期に発見するためには、スクリーニング検査としてBNPが有用であることも教えていただきました。
そして、心不全を予防するためには降圧が最も重要であることを、ご自身の施設のデータや大規模臨床試験の結果を交えながらわかりやすく解説していただきました。ALLHATやHYVET、ACCORD-BPといった過去の大規模臨床試験から、降圧薬の中でもサイアザイド類似利尿薬 (クロルタリドン*やインダパミド) やACE阻害薬の有用性が高いことを説明されるとともに、最近話題となったSPRINTやEMPA-REG OUTCOMEについても言及され、両試験とも使用した薬剤の降圧利尿効果 (SPRINTでは主にクロルタリドンの降圧利尿効果、EMPA-REG OUTCOMEではSGLT2阻害薬エンパグリフロジンが持つ利尿効果) が良好な結果をもたらしたのではないかと考察されました。
前回の「Doctor’s Topics」でも書いたように、SPRINT試験についてはまだ不明な点も残されており、今後のサブ解析結果が待たれるところですが、いずれの試験も薬剤の使用によって心不全の発症が有意に抑制され、その結果心血管死や全死亡も有意に減少している点は大変興味深いところです。利尿剤の使用過多による脱水や低血圧、腎機能の悪化には十分に注意する必要がありますが、サイアザイド類似利尿薬という古典的な薬剤の有用性について、今一度考える必要がありそうです。
*クロルタリドンは現在日本では使用されていません。