今回は最近注目されているMASLDについて取り上げたいと思います。
MASLD(代謝機能障害関連脂肪肝疾患)は、以前NAFLD(非アルコール性脂肪肝疾患)と呼ばれていた肝臓病の新しい名称です。肝臓に余分な脂肪が蓄積する病気で、放っておくと肝硬変や肝臓癌に進行する可能性があります。近年肥満や糖尿病の増加に伴い世界的に患者数が急増しており、日本では成人の約30%が罹患していると推定されています。
MASLDの診断には「脂肪肝があること」と「代謝異常があること」が必要です。BMI23以上、糖尿病・耐糖能障害、高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症、高血圧のいずれかがあり、かつ脂肪肝があればMASLDと診断されます。初期の段階では自覚症状がほとんどないため、血液検査で「ALT」という肝臓の数値が30 IU/L以上に上がっているかどうかが大事なチェックポイントになります。
日本肝臓学会は2023年に「ALT Over 30」を指標とする「奈良宣言」を発表しました。特定健診や人間ドックでALT値スクリーニングを実施し、30 IU/Lを超えていたら一度かかりつけ医に相談することが勧められています。かかりつけ医では肝炎の検査を行うとともに肥満や糖尿病の有無、飲酒量、肝機能障害を起こすような薬剤の服用歴がないかなどをチェックします。MASLDと診断された場合、肝臓の状態をさらに詳しくチェックします。具体的には血小板数(20万/mm3未満かどうか)や肝繊維化のマーカーであるFIB-4 Index(1.3以上かどうか)を確認し、該当する場合は専門医による精密検査を受けることになります。
MASLDは肝臓の病気ですので、肝硬変や肝臓癌への進行に注意することはもちろん重要ですが、それだけにとどまりません。この病気の背景には「代謝機能の異常」があり、肝臓ではその表現形として「脂肪沈着→繊維化→肝硬変→肝臓癌」と進行する経過を辿りますが、一方で代謝機能障害に伴い心血管イベント(狭心症・心筋梗塞や脳梗塞など)のリスクも高まることがわかっています。すなわちMASLDは全身病として捉えることもできるのです。
MASLD治療で最も大切なのは、生活習慣の改善です。MASLDの背景に肥満(特に内臓肥満)が存在するため、栄養指導では食物繊維の豊富な食品、新鮮な野菜や果物、全粒穀物を中心とした食事が推奨され、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、添加糖の摂取は控えめにします。運動療法としては週150分以上の中等度〜高強度の有酸素運動を目標にします。残念ながら現段階でMASLDに保険適応のある薬剤はありませんが、インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン誘導体など)やビタミンE製剤、フィブラート製剤(ペマフィブラートなど)、GLP-1受容体作動薬の有効性が期待されており、原疾患が存在する場合に使われることもあります。
まとめとして、MASLDは放っておくと肝臓が悪くなるだけでなく、心血管疾患のリスクも高めることがわかっています。生活習慣と密接に関わっているため、定期的に健康診断を受けて早期発見に努めるとともに、適切な食事と運動を心がけることが大切です。