5/23 (火) は「高血圧最新医療セミナー」が開催され、名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学教授の室原豊明先生から「家庭血圧から高血圧を考える」という演題名で、また岐阜大学大学院医学系研究科 循環・呼吸病態学教授の湊口信也先生から「虚血心筋保護とMuse細胞」という演題名でそれぞれご講演を賜りました。名古屋・岐阜両大学の循環器内科の教授がそろってご講演されるのは非常に珍しく、ましてやそのご講演が豊橋の地で聴講できるということで、大変貴重なセミナーとなりました。
まず講演1では室原教授のご講演を拝聴しました。室原先生は、最初に高血圧の疫学から現在の高血圧治療ガイドラインについてオーバービューされ、家庭血圧やABPM (自由行動下血圧) の重要性を指摘されました。ABPMの重要性は誰もが認めるところですが、一方で夜間就寝中に血圧計のカフが定期的に締まるため、睡眠障害が起こりやすいのが難点でした。室原先生からは、この欠点を克服すべく、産学連携によりカフを使用しない自動血圧計を開発中であることを紹介していただきました。指先にチップをはめて行うこの方法は、指尖脈波を血圧値に変換するもので、すでに国際的な精度評価試験の基準もクリアしているそうで実用化寸前といったところのようです。この血圧計を用いれば睡眠障害を起こすことなく夜間血圧が測定できるようになりますので、我々がABPMを行うハードルも随分下がりそうです。また室原先生は、現在大学病院で行われている脂肪組織由来幹細胞を用いた血管再生療法について紹介され、バージャー病や膠原病による下肢壊疽が劇的に改善する症例をご呈示いただきました。引き続き症例をリクルート中とのことですので、適応する症例がありましたら是非ご紹介したいと思います。
引き続き講演2では、湊口教授のご講演を拝聴しました。湊口先生には、ご自身のライフワークである虚血再灌流傷害と心筋保護について、膨大な研究成果をわかりやすく解説していただきました。特に、プレコンディショニングのメカニズムと様々な薬剤の効果について、ニコランジルを始めとした幾つかの薬剤の可能性についても教えていただきました。また湊口先生は、ご講演の後半で、現在積極的に取り組まれているMuse (ミューズ) 細胞の基礎的および臨床的知見について紹介されました。Muse細胞は東北大学の出澤教授らのグループにより発見された細胞で、骨髄や皮膚などの体内に元々存在し、体を構成する様々な細胞に分化できる幹細胞です。体内にMuse細胞が注入されると傷ついた臓器に集まり組織修復しますし、点滴投与なので体への負担が少ないこと、腫瘍を形成する可能性が低いこと、一つのMuse細胞製剤で多くの疾患に適用可能なことなどのメリットがあります。湊口先生は急性心筋梗塞患者にMuse細胞を投与して心機能が改善するかどうかの治験を行う計画を進めており、早ければ来年にも開始されるようです。今後の発展が非常に楽しみな領域だと感じました。
室原先生、湊口先生、今回はわざわざ豊橋までお越し頂き本当にありがとうございました。先生方のご研究が益々発展されることを祈念するとともに、早く我々の身近な臨床現場に利用できるようになることを期待しています。