4/12 (水) は久しぶりに名古屋の研究会に出席してきました。診療が終わってから向かったため一般演題には間に合いませんでしたが、特別講演は聴講することが出来ました。研究会の名称は「第4回 健康長寿と動脈硬化フォーラム」で、特別講演は「フォーカス!最後の心房細動診療 −Aging×Atrial Fibrillation− 」という演題名で、心臓血管研究所所長の山下武志先生から賜りました。山下先生のご講演は、流れるようなお話とインパクトのあるスライドの組み合わせが秀逸で、知らないうちに講演の中に引き込まれていくような感覚でした。
今回の講演は高齢者 (超高齢者) の心房細動治療に焦点を当てた内容で、DOACを使用して心原性脳塞栓を減らそうという一般的な講演とは一戦を画す内容でした。まず山下先生は、高齢心房細動患者の死因は脳梗塞よりも心不全の方がはるかに多く、さらに心不全よりも心臓以外の疾患(癌や肺炎など)の方がはるかに多いことを示され、脳梗塞さえ予防すればよいという風潮に対する疑問を投げかけました。その上で山下先生は、「外を見て内を診る」という言葉を用いて、まず患者さんをよく“見る”ことによりフレイルの有無を確認することの重要性を示されました。身体的フレイル (歩行速度や握力の低下)、精神的フレイル (認知機能の低下)、社会的フレイル (貧困や独居など) の観点からフレイルを多面的に捉えて評価することで、HAS-BLEDスコアなどよりも出血リスクを的確に予測できることを教えていただきました。
“内を診る”という観点では、心房細動患者の死亡リスク因子として腎機能低下、肺疾患、心不全、貧血 (出血の既往) が挙げられることを示されました。これらのリスクが高ければ高いほど、想定外のイベントが起こる頻度も高くなることから、当然DOACの使用にも十分な注意が必要となります。一方でフレイルがなくリスク因子も持たなければ、その患者さんの余命は長いことが予想されるため、積極的にDOACを使用することが推奨されます。その場合でも、すでに多くの薬剤を服用している (ポリファーマシー) 場合は、出血を始めとした有害事象が多くなるため、出来る限り薬剤を整理して減らすことが必要であることを教えていただきました。また高齢者は様々な代謝機能が落ちているため、通常用量よりも少量のDOACで十分有効かつ安全である可能性が高く、現在あるDOACでは用量を減らした治験が行われているそうです。よい結果が得られれば、高齢者 (超高齢者) 心房細動治療に新たな選択肢が加わるかもしれません。
山下先生は数々の著書でも知られる大変ご高名な先生ですが、いつ講演を聴いても新しい話題が満載で、今回も大変感銘を受けました。最後に控えめに宣伝された著書も是非購入したいと思います (笑)。