5/17 (木)には豊橋ハートセンター病診連携漢方講演会が開催され、「循環器領域で役立つ漢方治療」という演題名で東邦大学医療センター大森病院の戸田幹人先生にご講演いただきました。
循環器診療ではエビデンスに基づいて治療戦略を立てることが多いため(いわゆる欧米型の治療です)、漢方とは縁遠い領域のように思われていますが、今回の講演会はその循環器領域の漢方治療に焦点を当てている点が非常におもしろいと感じました。さらに、その講演会を主催したのがインターベンション治療で全国有数の医療機関であり、漢方治療とは対局に位置する医療機関であると思われがちな豊橋ハートセンターであるという点もまた興味深いところです。
神戸大学の岩田健太郎先生や神戸海星病院の北村順先生は、循環器診療における漢方の役割を「通常の治療では埋められない隙間を埋め、患者さんの満足度を上げること」と述べていますが、今回の戸田先生のご講演も、患者さんの諸症状を軽減するためにはどの漢方薬を用いたら良いかという実践に即した内容でした。戸田先生は、自ら漢方薬の服用により体調が著しく改善した体験から話を始められ、その後で様々な病態に効果的な漢方薬を数多く教えていただきました。もちろん漢方薬を効果的に効かせるためには「証」を正しく判断することや「気血水」の概念をきちんと取り入れることが重要だと思いますが、戸田先生は漢方診療に詳しくない我々でも理解しやすいように、極力難しい理論は抜きにして解説していただきました。例えば、同じ低血圧という病態でも、冷え性でめまいや心悸亢進がある場合は苓桂朮甘湯 (りょうけいじゅつかんとう) が良く、体力が低下している場合は補剤である補中益気湯 (ほちゅうえっきとう) が良い、といった具合です。戸田先生が推奨された処方の中で個人的に私が試してみたいと思ったのは、心筋梗塞後の諸症状に対する柴胡加竜骨牡蛎湯 (さいこかりゅうこつぼれいとう) 、下肢の冷えに対する当帰四逆加呉茱萸生姜湯 (とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう) 、慢性下肢虚血に対する黄耆建中湯 (おうぎけんちゅうとう) といったところでしょうか。既存の治療だけでは十分に抑えられない症状に対し、漢方薬を使用することで少しでも改善されるのであれば是非積極的に使用してみたいと感じた1時間でした。戸田先生、そして今回の講演会を企画して下さった豊橋ハートセンターの松原徹夫先生、大変ありがとうございました。