今回は趣向を変えて「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」を取り上げてみたいと思います。ご存知の方も多いかと思いますが、6月30日に5年ぶりの改訂となる「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」が発行されました。このガイドラインは、私たちが今後約5年間にわたって脂質異常症の治療を行う際の指標となる、大変重要なものです。今回の主な改定点は5つほど挙げられていますが、実際の治療を行う上で特に重要な点は「絶対リスク評価方法の変更」と「高リスク例での再発予防の管理目標値の新設」の2点だと思います。
2012年版のガイドラインでは、NIPPONDATA80という研究のデータを元にリスク評価チャートが作成されていましたが、評価の際にLDLコレステロールではなく総コレステロールを用いる点や、リスク評価が心血管疾患の死亡率で示されている点など、現状にそぐわない点も幾つかありました。今回の改訂では吹田研究の「吹田スコア」が採用され、リスク評価も心血管疾患の発症率に変更となりました。吹田スコアは、① 年齢、② 性別、③ 喫煙、④ 血圧、⑤ HDLコレステロール、⑥ LDLコレステロール、⑦ 耐糖能異常、⑧ 早発性冠動脈疾患の家族歴、の8項目の合計点で求められますが、その得点に基づいて低リスク、中リスク、高リスクの3つのリスク区分に分類し、それぞれの区分ごとに脂質管理の目標値を定めています。吹田スコアの算出方法については、ホームページ内の「動脈硬化について」の欄に掲載しておきましたのでご参照いただければ幸いです。
また2012年版のガイドラインでは、高リスク状態であってもLDLコレステロールの管理目標値は「100mg/dL未満」までに留まっていました。しかし近年の大規模臨床試験の結果から、家族性高コレステロール血症や急性冠症候群を合併する場合では、より厳格な「70mg/dL未満」へのコントロールを考慮するという項目が新設されました。これは昨今の「the lower, the better」の考えに基づいていると思われます。
上記ポイント以外にも、家族性高コレステロール血症に関する記載の拡充や、新しいコレステロール低下薬であるPCSK9阻害薬やMTP阻害薬に関しての記載が新たに加わるなど、押さえておきたい箇所がまだまだたくさんあります。しっかりと把握した上で、今後の脂質異常症患者さんの管理に役立てていきたいと考えています。