6/9 (木) の豊橋内科医会は、「エビデンスから見る糖尿病と心不全 〜TIMI Study Groupの経験から〜」という演題名で、相模原協同病院 循環器内科の加藤恵理先生にご講演を賜りました。TIMI研究グループは、心血管疾患に関連した大規模臨床試験を行う世界的に有名なグループで、ハーバード大学のブリガムアンドウィメンズホスピタル内にあります。加藤先生は、日本人で初めて (というよりアジア人で初めて) TIMI研究グループの上席研究員になられた方で、ご講演では先生の臨床試験に対する豊富な知識と、糖尿病治療に対する循環器内科医からの視点が組み合わされたことで、いつもの糖尿病関連の講演会とはやや趣を異にした素晴らしい内容となりました。
先生のご講演の中で特に印象に残ったのは、糖尿病治療の最終目標は細小血管障害や大血管障害を防ぐ事であり、血糖値やHbA1cはあくまで代替エンドポイントに過ぎない、という言葉でした。ごく当たり前のことではありますが、日常臨床の中でつい血糖値やHbA1cのコントロールばかりに目がいきがちな自分がいることに改めて気づかされました。今回のご講演の主なテーマである糖尿病と心不全については、糖尿病患者さんでは心不全の発症リスクだけでなく再発リスクも高いこと、さらに糖尿病が心不全発症の独立した危険因子であることを教えていただきました。
加藤先生はTIMI研究グループの中で、特にSAVOR-TIMI 53試験とDECLARE-TIMI 58試験に携わっているそうで、この2つの大規模臨床試験について解説されるとともに、DPP-IV阻害薬やSGLT2阻害薬に関連した他の大規模臨床試験の結果についても言及されました。SAVOR-TIMI 53試験 (DPP-IV阻害薬を用いた大規模臨床試験) では実薬群で心不全の発症率が有意に高かったのですが、この原因は未だに不明であること、EMPA-REG OUTCOME試験 (SGLT2阻害薬を用いた大規模臨床試験) では逆に実薬群で心不全の発症率が有意に抑制されていたのですが、その機序として利尿効果や降圧効果・体重減少効果などが複合した結果ではないかと言われていること、などを教えていただきました。
DECLARE-TIMI 58試験は現在もまだ試験が進行中で、結果が出るまでにあと1-2年かかるようです。症例数が17,000例を越える大規模臨床試験ですので、結果が出たら是非もう一度豊橋にお越し頂き、解説していただきたいと思います。なお懇親会の場では、先生の留学中の苦労話なども聞けて大変有意義な会となりました。加藤先生、本当にありがとうございました。