3/14 (水) には東三学術講演会が開催されました。今回の講演会では慢性腎臓病 (CKD) をテーマとして、ミニレクチャーと特別講演の2演題が企画されていました。まずミニレクチャーでは、成田記念病院副院長の大林孝彰先生から「糖尿病性腎症の動向」という演題名でご講演をいただきました。大林先生には、これまでの「糖尿病性腎症」から「糖尿病性腎臓病 (DKD)」という新しい概念について解説していただきました。「糖尿病性腎症」は微量アルブミン尿、顕性蛋白尿を経てネフローゼとなり、腎機能が悪化して末期腎不全に至る、という経過をとることが知られていますが、最近では尿蛋白が明らかでなくクレアチニンのみが上昇していくケースも少なくありません。これは高齢化や高血圧の合併などによる腎硬化症の側面が強いためと考えられており、「糖尿病性腎症」ではなく、もっと広く腎障害を捉えて「糖尿病性腎臓病」と呼んだらどうかということのようです。確かにこの方が実際の臨床現場に即しているような気もしますので、今後議論が活発に行われ、この新しい概念が広まっていくことが期待されます。
続く特別講演では「CKDの早期診断と治療戦略」という演題名で、名古屋大学医学系研究科 病態内科学講座腎臓内科学教授の丸山彰一先生からご講演をいただきました。丸山先生が来豊されるのは3回目ですが、いつも臨床に直結するデータやガイドラインについてわかりやすく解説していただけるので大変助かります。今回のご講演の中では、特に専門医への紹介基準と降圧療法についての内容が興味深く、新たな知識を得ることができました。
CKDの重症度分類では蛋白尿の程度によりA1〜A3ステージに、また腎機能 (eGFR) によりG1〜G5ステージに分けられています。丸山先生は、CKDのA1, A2, A3ステージの間には予後に明確な差がある一方で、G1-2とG3aの間には予後に差はなく、G3bから有意に悪化することを示されました。そのため、今年改訂される新たなCKDガイドラインでは紹介基準を簡素化し、GFR区分ではG3bステージ (GFR 45ml/分/1.73m2未満) での専門医紹介となるようです。この値はクレアチニンに換算すると60歳男性で1.3、60歳女性で1.0に相当するそうです。ただ丸山先生は、仮にこの値での紹介が難しい場合でもG4ステージ (GFR 30ml/分/1.73m2未満) では必ず紹介して欲しいと仰っていました。ちなみにこの場合だとクレアチニン換算で60歳男性 2.0、60歳女性 1.5に相当するそうです。
降圧療法については、昨年改訂されたACC/AHAの高血圧ガイドラインにも触れながら至適血圧レベルについて解説され、現状では130/80mmHg未満という厳格な降圧目標がよいのではないかと説明されました。また先程の大林先生のお話にも触れられながら、糖尿病性腎症 (糸球体障害) と非糖尿病性CKD (腎硬化症) に分けて解説されました。糸球体障害が主体の場合、糸球体内圧の増大による過剰濾過説 (hyperfiltration theory) に基づき、輸出細動脈を拡張し糸球体内圧を下げるRA系抑制薬が推奨されています。しかし腎硬化症が主体の場合は、動脈硬化が原因で輸入細動脈が狭窄している可能性があります。この場合は糸球体が虚血に陥っているため、RA系抑制薬よりもCa拮抗薬がよい可能性があるとのことです。実際の臨床で考えると、糖尿病があっても蛋白尿が全く認められない場合やRA系抑制薬を使用してクレアチニンが大きく上昇する場合は、RA系抑制薬ではなくCa拮抗薬による降圧を考えた方がよいのかもしれません。
丸山先生は大学時代の同級生でよく下宿を行き来していたこともあり、懇親会でも大変楽しい時間を過ごさせていただきました。丸山先生、大変お忙しい中時間を割いていただきありがとうございました。またの来豊をお待ちしています。