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高齢者心房細動のトータルケア講演会 “その1”

11/19 (火) には「第二回高齢者心房細動のトータルケア講演会 〜抗凝固療法はどうあるべきか〜 」が開催され、特別講演として藤田医科大学ばんたね病院 循環器内科教授の井澤英夫先生から「超高齢社会における心不全 心房細動治療と地域連携の課題」という演題名でご講演を賜り、その後パネルディスカッション「高齢者心房細動のトータルケア 〜今現場ではどのように考えているか〜 」が行われました。私はパネルディスカッションの座長を担当したのですが、まず井澤先生の特別講演についてご紹介したいと思います。井澤先生は心不全や心臓リハビリテーションがご専門である立場から、高齢者の心不全が爆発的に増加している現状を踏まえ、高齢者心不全の特徴 (①サルコペニア/フレイルの患者が多い、②EFの維持された心不全 (HFpEF) が多い、③疾病管理不十分により心不全が増悪する症例が多い、④心房細動を含め併存疾患が多く、包括的な治療が必要) について順を追って解説されました。先生はその中で、骨格筋の障害が心不全の運動耐用能低下 (労作時息切れ) を引き起こすことから、心不全に対する運動療法の有用性について詳しく説明されました。またHFpEFの原因として高血圧性心肥大が最も重要であることから、適切な降圧治療が必要であること、さらには心筋繊維化の抑制効果も踏まえてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 (MRA) が有望であること、を教えていただきました。後半では多職種ハートチームでの疾病管理の重要性について触れられるとともに、高齢者心房細動治療における注意点 (フレイル併存の観点からDOACの選択に関する注意点) についても解説していただきました。特にHFpEFに関しては未だ有効な治療法が見つからない現状の中で、運動療法の有効性とMRAの可能性について教えていただき、大変参考になりました。
以前にも書かせていただきましたが、井澤先生とは高校時代からのクラスメートで大学時代も同じ臨床実習グループのメンバーでした。さらには卒業後の研修病院こそ違ったものの偶然にも循環器内科という同じ専門分野を選ぶことになるなど、切っても切れない関係です。その井澤先生をこうして地元豊橋の講演会にお招きできるのは大変嬉しい限りです。井澤先生の今後の益々の活躍を祈念しております。
なお後半のパネルディスカッションの内容については“その2”で詳しく紹介させていただきます。

高血圧ガイドライン (2)

しばらくご無沙汰してしまい申し訳ありませんでした。今回は以前ご紹介した「高血圧治療ガイドライン2019」(JSH2019) について改めて考えます。JSH2019ではクリニカルクエスチョン(CQ) に対するシステマティックレビュー(SR) を実施し、その推奨文を作成する方式を採用していますが、今回はその中からCQ7の「冠動脈疾患合併高血圧患者の降圧において、拡張期血圧は80mmHg未満を避ける必要があるか?」を取り上げたいと思います。
本文中の解説では、まずシステマティックレビュー・メタ解析の結果から収縮期血圧を130mmHg未満に低下させることの重要性を強調しています (心不全を30%、脳卒中を20%、心筋梗塞や狭心症を10%抑制)。一方で冠動脈への血流は拡張期に維持されるため、降圧により拡張期冠灌流圧が下がると心筋虚血を引き起こし心イベントが逆に増加する (Jカーブ現象) 可能性が懸念されています。実際に幾つかのRCTの後付け解析や観察研究では拡張期血圧が55〜70mmHg未満になると心血管イベントの増加がみられているのですが、これらの結果は前向きに降圧目標をたてて行ったものではないため、そのまま鵜呑みにすることはできません。
そこでJSH2019では拡張期血圧が80mmHgを達成したRCTを抽出してシステマティックレビューを行っていますが、死亡率の低下は認められませんでした (心不全や冠動脈血行再建は有意に減少)。その他、INVEST試験の後付け解析とCREDO-KYOTOレジストリーについても詳細な解析を行った結果、Jカーブ現象の本質は、冠動脈狭窄病変による心筋虚血に加えて、併存する疾患のために ①もともと拡張期血圧が低い、②降圧治療により過剰に血圧が下がりやすい症例では心血管イベントリスクが高い、という「因果の逆転」である可能性が高いという結論に至っています。すなわち拡張期血圧が低いことは心イベントの原因ではなく、心イベントを起こしやすいというマーカーである可能性が高いと言えます。
最終的な結論として、冠動脈疾患を有する高血圧患者さんにはまず130mmHg未満の降圧を優先して行い、その際に拡張期血圧が80mmHg未満に下がってもまず心配はいらないということでしょう。ただし70mmHg未満まで下がる場合は、現時点でエビデンスがないため、その患者さんの持つ病態 (心筋虚血、高度動脈硬化、全身の動脈硬化性疾患、心不全、CKDなど) と併せて慎重に降圧する必要がありそうです。
 

第9回豊橋ライブOMTコース

6/20 (木) に、第7回豊橋ライブ OMT (Optimal Medical Therapy) コースが開催され、例年通り徳島大学循環器内科 佐田政隆教授と一緒にコース世話人を務めさせていただきました。OMTコースが豊橋内科医会との共催で開催されるようになってから今年で5年目を迎え、毎年40名前後の先生に参加していただけるようになっています。
まず第一部では「弁膜症はどこまでカテーテル治療で治せるか」という演題名で、豊橋ハートセンター循環器内科医長の山本真功先生にご講演を賜りました。やや刺激的なこのタイトルは、TAVI (経カテーテル大動脈弁植込術) に加えてMitraClip (経皮的僧帽弁形成術)も保険での診療が可能となった現状を、広くかかりつけ医の先生に紹介していただくために私からお願いしたものです。先生はまず井上バルーンによるPTMC (経皮的僧帽弁交連裂開術) から紹介され、ついでTAVIへと話を進められました。TAVIに関する多くの大規模臨床試験の結果からその有効性と安全性が明らかになるにつれて、その適応も徐々に広がりつつあります。山本先生ご自身はすでに600例を超える症例実績があるとのことですので、日本でも有数の症例数ではないでしょうか。またMitraClipに関してもすでに豊橋ハートセンターで開始されており、海外の大規模臨床試験の結果からもかなり期待が持てそうです。最後のスライドで、山本先生は「弁膜症はどこまでカテーテル治療で治せるか」という問いに対し、「全部!」と答えられた後に「だったらいいなあ〜」と付け加えられて講演を終了されました。今後この分野が益々発展し、先生の希望が叶うことを循環器診療に携わる者として願っています。
第二部では佐田教授自らご登壇いただき、「油博士が語る!食べて健康スーパーオイル 〜これで患者も先生も健康長寿〜」という演題名でご講演を拝聴することができました。佐田先生にはOMTコースの前身である長期予後改善コースの頃に一度ご講演いただいたことがありますが、その後はずっと座長席に留まっておられました。今回は「佐田先生の話を聞きたい」という多くの先生の希望を受けて、満を持しての登場となりました。先生のお話は決して簡単な内容ばかりではないのですが、疫学研究と介入試験、さらにはご自身が行った基礎および臨床研究の結果を上手にまとめられて話をされるため、大変理解しやすく興味の尽きない講演となりました。n-3 (ω-3)系多価不飽和脂肪酸、中でもEPAは大規模臨床試験の結果からスタチンの残余リスクを減らし得る貴重な一手となる可能性があります。佐田先生は、EPAには接着因子の抑制や病的な血管新生の抑制、さらにはMMP-1の発現抑制によるプラークの安定化や血小板機能の改善等、多くの抗動脈硬化作用があることを基礎実験の結果から示されました。またEPA単独が良いかEPA+DHAが良いかについても、ご自身の研究結果からはっきりとした見解を述べられていたのが印象的でした。n-3系多価不飽和脂肪酸は食品から積極的に摂取することが望まれますし、薬剤としてもさらなるエビデンスの蓄積が期待できそうで、動脈硬化予防の分野に大きな希望を抱かせる講演内容でした。佐田先生は「油博士」として様々なテレビ番組にも紹介されていますが、「油」に限らず動脈硬化研究において日本の第一人者の先生ですので、これからも是非定期的にご講演いただければと思います。
おかげさまで今回のOMTコースも盛況のうちに会を終えることができました。ご講演いただいた佐田先生、山本先生、ご参加いただいた先生方、そしてコースの運営にご協力いただいたスタッフの方々、本当にありがとうございました。

高血圧治療ガイドライン2019

3月下旬には日本循環器学会総会、先週末(4月下旬) には日本医学会総会・日本内科学会総会・日本血管不全学会総会と大きな学会が続きました。もちろんそれらの内容もお伝えしたいのですが、今回は4月25日に5年ぶりに改定された「高血圧治療ガイドライン2019」(JSH2019) について取り上げたいと思います。とは言え、私もガイドラインを手に入れたばかりで全てを理解した訳ではありません (今回のガイドラインは281ページもある超力作です!) 。ただしそのエッセンスはすでにネットニュース等で紹介されていますので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
まず最大の関心事は「高血圧基準値に変更があるか否か」でした。ご存知のようにアメリカのガイドライン (ACC/AHA高血圧ガイドライン2017) は、SPRINT試験の結果を受けて高血圧基準値を従来の140/90mmHgから130/80mmHgに引き下げました。一方で昨年改定されたヨーロッパのガイドライン (2018 ESH/ESC高血圧ガイドライン) では高血圧基準値自体は140/90mmHgに維持し、その代わりに降圧目標値を120〜130/70〜79mmHgに厳格化する方式をとってきました。結論から言えばJSH2019はヨーロッパのガイドラインにより近く、高血圧基準値では140/90mmHgを堅持した一方で、合併症のない75歳未満の成人の降圧目標値を130/80mmHg未満へと強化しています。この理由はいくつか考えられますが、まずガイドライン第2章「血圧測定と臨床評価」の中に記載されているように、米国のガイドライン変更の元となったエビデンスは全て欧米のものであり、わが国でのRCT (ランダム化比較試験) がほとんど存在しないことが挙げられます。他には、SPRINT試験で用いられたAOBP (自動診察室血圧測定) が通常の診察室血圧測定とは異なること (AOBPの方が10/4mmHgほど低いという報告があります) や、AOBPが日本ではほとんど普及しておらず今回のガイドラインでは血圧測定法として採用されなかったこと、も影響しているのではないでしょうか。以下に降圧目標値が130/80mmHg未満の対象者を挙げておきます。
① 75歳未満の成人
② 脳血管障害者(両側頚動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)
③ 冠動脈疾患患者
④ CKD患者 (蛋白尿陽性)
⑤ 糖尿病患者
⑥ 抗血栓薬服用中

なお、75歳以上の高齢者の降圧目標も140/90mmHg未満となり、JSH2014と比べて強化されている点にも注意が必要です。以下に降圧目標値が140/90mmHg未満の対象者を挙げておきます。
​① 75歳以上の高齢者
② 脳血管障害者 (両側頚動脈狭窄や脳主幹動脈の閉塞がある、または未評価)
③ CKD患者 (蛋白尿陽性)

JSH2019では、血圧値の分類にも変更がありました。具体的には診察室血圧が120/80mmHg未満のみを「正常血圧」と定義し、従来の正常血圧 (120-129/80-84mmHg) を「正常高値血圧」に、従来の正常高値血圧 (130-139/85-89mmHg)を「高値血圧」に、それぞれ変更しています (厳密には拡張期血圧の区分も若干変更されています)。また診察室血圧における高血圧の分類 (I〜III度)に変更はありませんが、新たに家庭血圧にも高血圧の分類 (I〜III度) が加わりました。ただしこの血圧値は単純に診察室血圧から5mmHg引いた値ではない点に注意が必要です。血圧値の分類に関しては分かりづらいと思いますので、詳細はガイドラインをご参照下さい。
それ以外にもJSH2019の特徴として、クリニカルクエスチョン (CQ) 17項目に対するシステマティックレビュー (SR) を実施し、その推奨文を作成する方式を一部採用していることが挙げられます。またエビデンスが十分でないものの多くの医療従事者が疑問に思っているクエスチョン(Q) 9項目についても回答 (コンセンサスレベル) を行なっています。私が特に気になったCQはCQ7の「冠動脈疾患合併高血圧患者の降圧において、拡張期血圧は80mmHg未満を避ける必要があるか?」と、CQ8の「心筋梗塞または心不全を合併する高血圧患者において、ACE阻害薬はARBに比して推奨されるか?」です。前者はいわゆる「Jカーブ現象」について、後者は二次予防患者に対する「ACE阻害薬とARBの同等性」について、これまでより踏み込んだ回答を行なっています。ページの都合もありますので、これらについては次回以降に詳しくご紹介したいと思います。
いずれにせよ降圧目標値が変更になったことで、これまでよりも厳格な降圧が必要となる場面がかなり増加するのではないかと思われます。急に降圧目標値が厳しくなることに対して疑問を持たれる患者さんも少なからずいらっしゃると思いますので、丁寧に説明を行い十分に納得していただく必要があると思っています。

東三医学会

3/2 (土) には第41回東三医学会が開催されました。この会は東三河医師会連合が主催して行われるもので、毎年3月の第1土曜日に開催されています。普段行われている東三学術講演会とは異なり製薬メーカーの共催はなく、文字通り東三河の医師たちが一から作り上げている学会形式の会で、私も数年前から準備会のメンバーとしてプログラムの作成や当日の進行に携わらせていただいています。
例年東三河地域の病院や診療所から25題前後の演題応募がありますが、今年も26題の応募が集まりました (残念ながら1題は発表の先生が体調不良のため取り下げとなり、実際の発表は25題でした)。今年は例年以上に参加者が多く、参加者総数は100名を超えました。それに伴いdiscussionも活発に行われ、例年以上に活気のある会となりました。
東三医学会の良い点はたくさんあるのですが、何と言っても東三河地区の様々な医療機関の発表を一度に聴ける点が挙げられます。中でも豊橋市民病院や豊川市民病院といった基幹病院の発表を聴くと、専門以外の診療科でどのような最新治療が行われているのかがわかるので、自院の患者さんを紹介する際に大変参考になります。
また自院では遭遇しないような希少疾患の診断・治療についての発表を聞くと、改めて診断の難しさや医療の奥深さを思い知らされます。我々は普段から頻度の高い疾患をまず念頭において病気の鑑別診断を行っています。もちろんその方が効率よく診断できることが多いのですが、一方でこの思考を毎日繰り返していると、知らないうちにアベイラビリティー・バイアス(よく見る病気を真っ先に考えるため推論に歪みが生じること)を引き起こしてしまう危険性が高くなります。特に頻度は低いものの決して見逃してはいけない疾患(レッドフラッグと呼ばれています)を確実に診断できるように、普段から自分自身に「たゆまぬ監視の眼(incessant watch)」を向ける必要があると強く感じました。また、東三河には診療所でも専門性の高い診療を行っている医療機関がたくさんあります。今年は耳鼻咽喉科と脳神経外科の医療機関からそれぞれ発表があり、私自身も大変刺激を受けました。
なお今回は田原市医師会が当番でしたが、次回は蒲郡市医師会が当番で3/7 (土) に開催する予定です。来年度も今回以上に多数の演題応募ならびに多数の先生のご参加をお願いいたします。
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