7/18 (土) に、MERS(中東呼吸器症候群)対策講演会が豊橋市医師会の主催で行われました。連休前の土曜日の午後にも関わらず、80名近い医療関係者の方が参加され、この疾患に対する関心の高さを伺わせました。
講師は、この分野で世界的にも大変ご高名な東北大学・微生物分野の押谷仁教授でした。講演では「新興感染症の現状と日本国内での課題」という演題名で、MERSだけでなく、昨年国内感染例が認められたデング熱や、西アフリカで多くの死者を出したエボラウイルス病(最近ではエボラ出血熱と呼ばないことが多いようです)についてもお話をいただきました。
講演の中で先生は、マニュアルだけでは対応できないことがあるとされ、「想定外」の事態が起きた際に、どれだけ適切な対応ができるかが重要だと強調されました。そしてそのためには、適切なリスクアセスメントが不可欠であることを、リスクマトリックスという表(流行が起きる可能性を横軸に、起きた場合のインパクトを縦軸に置き、リスクの評価を行うもの)を用いて説明されました。
具体的には、エボラウイルス病の場合、日本に波及する可能性は (1+) (地理的にも可能性は低い) で、日本で起きた場合のインパクトも (1+) (仮に日本で発生しても大規模な流行になる可能性はほとんどない) とそれほどリスクが高くないのに対し、MERSの場合は、日本に波及する可能性は (2+) (日本でも感染の起こる可能性あり) で、日本で起きた場合のインパクトも (2+) (数人〜数十人の規模の流行が起こりうる) と、エボラウイルス病よりもややリスクが高いことを示されました。
最後に先生は、リスクマネジメントの観点から、国・地域レベルで早急に体制を整備する必要があることを強調されました。実際に感染症が起こるのは地域であるため、地域レベルでこそ適切なアセスメントおよび初期対応が行われる必要があります。しかしその一方で、地域には感染症の知識を持った専門家が少ないという現実があります。医療関係者だけでなく、行政と連携してこの問題に早急に取り組んで行く必要があると強く感じました。
グローバル化の進展とともに新興感染症のリスクは増大しており、日本だけが安全ということはあり得ないということを実感した90分でした。