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2017東三学術講演会1

今年最初の東三学術講演会は、1/20 (水) に「中高年の肩痛・肩こりの診かた・治し方」という演題名で、愛知医科大学医学部 整形外科 教授の岩堀裕介先生にご講演を賜りました。今回のように東三学術講演会は、内科に限らず幅広い分野の先生方から話を聴くことができるので、全く新しい知識を得られる大変貴重な機会だと思います。
まず岩堀先生は、内科医にも理解しやすいように肩関節の構造についてわかりやすく解説していただきました。その後肩痛を呈する代表的な疾患について、その病態や診断、治療について詳しく教えていただきました。私個人としては、いわゆる「五十肩」について、最近は「凍結肩」という用語を用いるということを恥ずかしながら初めて知りました。また凍結肩では血管造影を行うとburning signと呼ばれる異常血管が認められること、この正体はA-V shuntであり病変部位の低酸素に関係していること、異常血管の周囲には疼痛受容体が多く分布し痛みに関与している可能性があること、この異常血管が関節包の肥厚や拘縮に関与している可能性があること、さらにこの血管をカテーテルで塞栓する治療法が試みられていることなど、最新の知見も教えていただき大変興味深く拝聴しました。さらに、凍結肩以外にも石灰沈着性腱包炎や腱板断裂などについても解説していただいたのですが、岩堀先生の診療に対する真摯な姿勢がダイレクトに伝わってくる講演でした。先生は適切なリハビリを非常に重要視されており、肩疾患に精通した理学療法士と協力して保存療法を行います。さらには薬物療法や注射などを組み合わせて治療を行い、症状が改善しない場合や何らかの理由で早急に治療する必要がある場合は手術を選択しますが、やみくもに手術を行うことはしないとのことです。もちろん先生は手術の腕も超一流なのですが、一人一人の患者さんの状態や希望に応じて治療を行う姿勢に大変感銘を受けました。ただあまりにも肩痛の講演に時間がかかってしまったため時間切れとなり、肩こりの話が聴けなかったのが唯一残念でした。
実は岩堀先生は私の大学時代の部活の3年先輩であり、懇親会では大学時代の思い出話も含めて大変楽しい時間を過ごすことができました。今回聴けなかった肩こりの話も別の機会に必ずお話ししいただけるとのことですので、楽しみに待ちたいと思います。岩堀先生、本当にありがとうございました。

東三学術講演会

11/30 (水)には東三学術講演会が行われました。今回の講演会は「糖尿病勉強会」の第7回にあたるもので、テーマは「動脈硬化を見つけるために」でした。ご存知のように糖尿病患者さんは大血管障害(脳卒中や心筋梗塞など)の発症率が高く、糖尿病でない人に比べて2〜4倍発症しやすいと言われています。すなわち糖尿病患者さんでは、どうすれば動脈硬化の進行度を適切に評価できるかが重要なテーマとなってきます。今回は僭越ながら私も「かかりつけ医でできる動脈硬化評価法」という演題名で発表させていただきました。
講演では、まず「動脈硬化とは」という話から始めさせていただきました。我々は普段から動脈硬化という言葉をよく使いますが、いざその定義は?と聞かれると、答えに窮する人が案外多いのではないでしょうか。ここでは中山書店の「内科学書 改訂第8版」に記載されている「血管壁の肥厚、硬化、改築および機能低下を示した動脈硬化病変の総称」という定義を使用しましたが、動脈硬化を評価する方法は、この中の「硬化、機能低下」を診る検査(血管機能検査)と「肥厚、改築」を診る検査(形態学的検査)の、大きく2つに分けられるのではないかと思います。今回は時間の制約もありましたので、血管機能検査ではFMD、RH-PAT (以上血管内非機能検査)、baPWV、CAVI (以上動脈スティフネス検査)、ABIの5つを紹介させていただきました。また形態学的検査では「かかりつけ医でできる」というテーマに基づき、頸動脈エコー検査のみ紹介させていただきました。さらに各検査のメリットとデメリットを、①エビデンスの存在、②簡便性、③再現性、④コスト、という4つの観点から私なりに評価し、私見を述べさせていただきました。講演内容につきましては不十分な点も多々あったかと思いますが、参加された先生方の日常診療に少しでも役立てば幸いです。

10月の研修内容

10月は何かと気ぜわしく、ゆっくりと「Doctor’s Topics」を書く余裕もないまま過ぎてしまいました。それでも10月全体では10回ほど研究会に参加してきました。その中で強く印象に残っているのは、10/5 (水) の東三学術講演会で豊橋ハートセンター循環器内科医長の羽原真人先生がご講演された「コレステロール代謝と冠動脈硬化病変との関連性〜最適なコレステロール低下療法への考察〜」や、10/13 (木) の豊橋内科医会研修会で聖霊浜松病院副院長の山本貴道先生がご講演された「てんかんの理解と診療の基本〜脳神経系専門医との連携を推進するために〜」、さらには10/25 (火) の疼痛診療セミナーin豊橋で浜松医科大学整形外科学教授の松山幸弘先生がご講演された「痛みの発生メカニズムに基づいた最新の診断・治療」などです。
我々かかりつけ医は、自身の専門分野については最新の知識を維持したいと思う一方で、専門分野以外の知識も幅広く取り入れたいと考えています。そういった意味で10月は、私の専門分野である循環器内科に関する講演から始まって、神経内科や整形外科といった非専門分野まで幅広くお話を伺う機械を得ることが出来て、忙しいながらも充実した一ヶ月だったと思います。実は11月も多くの研究会が予定されていますので、時間が許す限り参加して知識を吸収し患者さんの診療へ還元したいと思います。

穂の国Total Care Seminar

9/15 (木) は「穂の国Total Care Seminar」が豊橋ハートセンターで開催され、特別講演として「リポ蛋白レベルでは語れない脂質の代謝」という演題名で、大阪市立大学大学院医学研究科 血管病態制御学 准教授の庄司哲雄先生にご講演を賜りました。
脂質代謝の分野は、PCSK9阻害薬という新しいコレステロール治療薬が出て来たこともあり、再び注目を集めています。リポ蛋白は簡潔に言うとコレステロールや中性脂肪を運ぶ粒子で、大きさ (比重) によってVLDL (超低比重リポ蛋白)、LDL (低比重リポ蛋白)、HDL (高比重リポ蛋白) などに分けられます。まず先生は、復習を兼ねてリポ蛋白代謝について非常にわかりやすく解説していただきました。私はいろいろな研究会でリポ蛋白代謝の話を聞いてきましたが、庄司先生の説明が最も理解しやすく、かつコンパクトにまとまっていると感じました。また、わかりにくい高脂血症のタイプ分類 (I型〜V型) についても、頻度の低いI型、III型、V型を除いて簡易的に分類する方法を教えていただき、まさに目から鱗が落ちる思いでした。
次に先生はそれぞれの高脂血症に対する治療法について解説され、さらに治療を行う上でのガイドラインについても言及されました。一般的にガイドラインは、管理目標値を設定しそれを達成すべく治療を行うもの (Treat to Target方式) が一般的ですが、最近のガイドラインの中には、目標値を設定せずに治療を行うもの (Fire and Forget方式) があり、2013年に出されたアメリカの脂質治療ガイドライン (ACC/AHA Guideline) などがこれに当たります。どちらがよいかは議論があり一概に言えないと思いますが、今後は医療経済学的な側面も含めて考える必要があるのかもしれません。
最後に先生は、本題であるリポ蛋白レベルではない脂質代謝 = 脂肪酸代謝について、脂肪酸の分類や脂肪酸と心血管イベント (心筋梗塞や脳卒中など) との関連も含めて解説されました。EPA (エイコサペンタエン酸) やDHA (ドコサヘキサエン酸) はω-3系多価不飽和脂肪酸に分類され、大規模臨床試験による心血管イベント抑制のエビデンスが存在します。しかしスタチンなどに比べるとエビデンスが少ないこと、必ずしも有効性が示されない臨床試験が存在することも事実で、今後さらなるエビデンスの蓄積が必要だと感じました。
今回は庄司先生のおかげで、脂質代謝に関する自分の中の知識を整理するとともに新たな知識を得ることが出来ました。庄司先生、お忙しい中ご講演ありがとうございました。

平成28年度卒後研修会

8/27 (土) には平成28年度豊橋市医師会卒後研修会が開催されました。昨年もご紹介しましたが、本研修会は必ずしも医療に直接関係する内容である必要はなく、演者も医療関係者に限らず幅広い分野の方々からお話を伺おうとするものです。本年度は「自閉症と化学物質 ―誘発物質探査の現状と自閉症からの回復の試み―」という演題名で、豊橋技術科学大学 環境・生命工学系講師の吉田祥子先生にご講演を賜りました。今回は自閉症関連のテーマでしたので、比較的医療との関連が深い内容だったものの、やはり通常の研究会とは切り口の異なった、新鮮な驚きが詰まったお話となりました。
普段我々が自閉症関連で講演を聴講する場合には、自閉症の診断やその後の支援のあり方について焦点を当てたものが多い印象があります。もちろんそれらは医療者にとって大変重要なテーマなのですが、今回吉田先生は科学者としての視点から、コホート研究の結果を元に自閉症を引き起こす可能性がある環境因子を紹介されました。次に先生は、それらの因子について実際に動物実験で検証を行い、病理学的に脳(特に小脳)にどのような変化が起きているのかを解説されました。自閉症を「脳」の問題として捉え、科学的に探求している姿勢には大変感銘を受けました。
また後半では、「自閉症は治るのか」という非常にインパクトの強いテーマについて、いくつかの文献的考察を交えながらご紹介いただきました。今回のご講演の中で名前の出た薬剤については、いずれも国内では適応外のため具体的な名前を出すことを控えさせていただきますが、先天的な障害として(治らない疾患として)自閉症を捉えて来た我々にとっては、十分に刺激的な内容でした。
吉田先生は最後に、自閉症はもはや病ではなく人類の一つの類型であり、自閉症を緩和する「技術」あるいは自閉症を容認する「社会」を開発する必要があるのではないか、という問題を提起して講演を終了されました。先生には是非今後も研究を発展させていただき、自閉症の人たちや現代社会に対して光明をもたらしていただければと思います。吉田先生、本当にありがとうございました。
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